月: 2019年4月

ケルト・メモ:(4)4000年前の沼地殺人事件

 またも 4/12に、偶然関連あるテレビ番組の後半を見てしまいました。
 BS朝日 地球大紀行 *44「4000年前から来た男、遺体の謎を追え」   https://www.bs-asahi.co.jp/wild-nature-chikyu/lineup/prg_044/ 

  2011年にアイルランドのキャシェルCashelで、土を掘っていた重機のオペレーターが、埋もれていた死体を見つけた。当初、これは殺人事件の被害者かと思われたが、それはあまりに保存状態が良いために起こった誤解だった 。  
 科学鑑定で遺体の男性は、4000年前に死んだという驚くべき結果が得られた。ではなぜ、彼は死んだのか? CTスキャンや胃の内容物の調査、そして犯罪捜査の手法を用いて謎の死因に迫る。そして見つかった証拠の数々…。  
 彼は若き王だったのか? だとすれば、なぜ彼は殺されなければならなかったのか? カメラが彼の正体に迫る。  
 (実は、昨年の9/14には、*36「沼に沈んだ遺体 2000年前の殺人事件の謎を解く」もあったようです。https://www.bs-asahi.co.jp/wild-nature-chiky u/lineup/prg_036/)  

 この番組の主眼は、沼地で殺害された男たちは王で、しかし穀物の実りが不作だったので、女神の怒りを解くべく殺された(それは、遺体に傷つけられた様子でわかるのだそうです)、その時期は、沼の有殻アメーバーの研究から、青銅器時代から鉄器時代の変わり目(前750年頃)に気候の大変動が実証された、という仮説の提出にあるようです。  
 でもそれだと、遺体の年代と1000年もずれている気がするのですが、前半を見ていないので、はっきりしません。しかし、不作の責任をとっての王の処刑というのはケルト神話的にもありえる話だなと思いました。 
 そして関連で、デンマークのを調べている内に、有名な「ヴィンデビーの少女」が骨格やDNA鑑定によって、最近では若い男性だった可能性が出てきていることも知りました(しかも、姦通の相方とされていた男性は300年も前の人物だった由)。最近のポンペイでの寄り添って死んでいる石膏像の「乙女たちの像」の少なくとも一方が男性だったことが判明したのとよく似た現象で、面白かったです。でもなんだかなあ、ロマンが・・・。
出土状況
あとから見つかった部位を含め、広げるとこうなるらしい

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ポンペイの石膏像修復で分かった新事実:遅報(4)

 遅ればせながらのご報告です。  
 2019/4/6放映のNHK 地球ドラマチック「ポンペイ 石こう像の新事実」44分を、現在オンデマンドで見ることできます。東京では15日00:00からEテレで再放送されるようです。これは2018年イタリア製作のもののようです。  
 これは石こう像の修復にともなって、DNA分析を含む、先端光学機器で分析する様子が紹介されていて、我々の研究にも大いに参考になりそうです。  
 私的にもっとも衝撃的だったのは、最後に、DNA分析から、「黄金の腕輪の家」(VII.16.22:Casa di M.Fabio Rufo e Bracciale d'Oro)出土の「家族の像」の4人の間に遺伝的関係がないこと、しかも母親と思われていた像は男性だったことが判明したことでした。また、「乙女たちの像」(I.6.2:Casa del Criptoportico)の一人は男性で、もう一人は特定できなかった、という事実が証明されたことも。彼ら二人が男性だったら同性愛者たちの可能性を発掘者たちは指摘しているようです。こういう発想はさすが同性愛天国のイタリア人の着想ですが、私にはちょっと先走りすぎているように思えて、疑問です(いかにも新聞記者が飛びつきそうな話題にしているとしか思えませんよね)。
 ともかく、ロマンティックなストーリー性が失われて、若干がっかりもしますが、話題になりそうにマスコミを意識し、見た目で判断してきた従来の研究の問題点があますことなく明確に指摘されたわけです。

http://www.thehistoryblog.com/archives/46830
これまで家族と思われていた4体の石膏像:VII.16.22
いわゆる「乙女たちの像」:I.6.2

【追伸】これまでは、もっともらしく以下のように想像されていました。http://karapaia.com/archives/52192827.html

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【追記】ぐぐっていたら、ウェスビオ山の「噴火は秋だった」というブログがあって。で、お節介ですが、それには異論もあってまだ論争中です、ということで。以下参照。坂井聰「ポンペイはいつ埋没したのか:噴火の日付をめぐる論争」『モノとヒトの新史料学』勉誠出版、2016年、pp.160-186. また、一昨年発見の落書きについて、同じ坂井先生の紹介がこのHPの「実験工房」のほうに速報を寄せられています。それまでのつなぎとして、私もこのブログの2019/7/2に書いていますので、興味ある方はどうぞ。

【余談】こんな情報もみつけました:「古代ローマの「恋人たち」 実は男性同士手をつなぎ埋葬」(https://www.afpbb.com/articles/-/3244454?pid=21624720)。こっちの研究者はいたって冷静。

イタリア半島根っこ中央のモデナ出土

原情報はこちら:https://www.nature.com/articles/s41598-019-49562-7

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万里の長城余滴:飛耳長目(7)

 これまた偶然に途中から見たのですが(こんなのばっか)、NHK BSプレミアム「空旅中国 万里の長城」)、4/6に見たテレビが刺激的でした(現在、オンデマンドで視聴可能なようです)。万里の長城を主として空撮してました。土の壁の長城が西へ西へと延びていくわけですが、その影響について、私には興味深い2つのことを、ナレーション(近藤正臣)が言っていました。

 ひとつは、長城の向こう側にいた人々は中国本土を離れると言うまでもなく、遊牧民族でした。彼らにとって、重要な財産は羊で、それは同時に食料だったわけです。羊を伴って彼らは移動してた、というのはこれまでも、まあ常識として知っていたのですが、羊が乗り越えれない壁を築けば、遊牧民は東進南進できなくなる、という理屈には初見参でした。

 もちろん、壁を壊して侵入することは可能ですが、それは部分的な侵入に限定されちゃうわけなんでしょうねえ。

 これを古代ローマ時代に適応すれば、大陸のリメスにせよ、ブリタンニアの長城にせよ、さほど立派な壁でなくとも、十分効果を持っていた、という理屈になります。これまでは、あの程度の壁では侵入は防げなかったけど、その線が文明圏と野蛮の地の一応の境界線を意味していたのだ、などと若干文明論的・精神論的に無理矢理説明されてきたわけですが、今回のテレビをヒントとしてより説得的な説明に私には思えるのでした。しかしまあ、蒙古なんかのステップ地帯と西欧の自然環境を同一視するのはちょっと引っかかりますが。それにしても考えてみると、ブリタニアの中世から近世の画期とされるエンクロージャー(囲い込み)だって、まあ石垣程度でよかったわけですよね。ともかく、この羊の動物行動学的な見方は、これまで私には欠落していた視点でした。

 第二の点は、やはり遊牧民がらみなのですが、草を求めて移動していた彼らが例年の習いで移動してきてみると、そこに長城ができていて、内側に入れなくなっている、そして内側では漢民族が農耕を始めている、という図式です。漢民族と農耕地の拡大は、中国史やっている院生がそんな発表をしていた記憶あるのですが、それと長城が関連していたというのは初耳で(しかし考えてみれば当然ではある)、刺激的でした。しかしこれはどの程度言えるのか、私には確信はありませんが、図式としては面白いなあと。

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Trierでマルクス生誕200年祭の0ユーロ札発行:遅報(3)

 ちょうど1年前のことで、遅ればせですが、以前トリーアがらみでコンスタンティヌス〇〇の1700年祭で、コインを論じたとき、きっと2018年のマルクス(1818-1883年)生誕年でもお祭りするだろうと書いたことがありましたが(http://pweb.sophia.ac.jp/k-toyota/atelier/constantinus_1700.pdf)、やっぱり同様に、今回はお札を発行しているようです。

 あわててちょっと調べてみたら(https://eurocommemorative.com/en/95-edition-2018?page=6)、この0ユーロ札ですが、お土産用にやたら発行されているようで(ユーロ世界と無関係の中国のものなんかもある)、しかも他のは 3.50€くらいで手に入るのに、マルクスさんのは13.90€の値段がついています。もともとは3ユーロで発売されているのにぃ。なんてこった!

【お詫び】最初、不用意にEvernoteに記憶させていたウェブ記事をそのまま転載してしまいましたが、削除しました。そのウェブ記事は以下でした。https://www.businessinsider.jp/post-166114

【追記】注文した紙幣もどきが、フランスから送られてきた。大きさはほぼ20ユーロ札大だが、心持ち大きめ。図柄は、本物は裏表とも建物だけだが、表中央をマルクスの顔が占め、裏の右端にモナリザの顔の向かって左半分が描かれ、中央から右にかけてコロッセオやエッフェル塔、サグラダファミリアなど5つの建物としょんべん子像が描かれている。透かしは、表の右上に変形星形が、そして裏の中央に上下に細く入っている。紙幣の質感は本物と見まごうばかりで、Souvenirとは思えない立派なできばえ。我が国でいうと、造幣局が副業でこういうお土産モノを販売して、手間賃を稼いでいる、という図だろうか。

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奇跡は偶然では起きない:飛耳長目(6)

https://digital.asahi.com/articles/ASM436SC6M43UNHB00Z.html?iref=com_rnavi_arank_nr04

 保育園でのマニュアル改訂直後に、地震と津波がきた。

 職員が考え、努力し、訓練した結果。何より「子どもの命を守る」という保育の基本を共有していたからこそ、できたことだ。

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本ブログの真意:学者稼業の使命:田川建三・弓削達

 田川建三氏が一昨年毎日文化出版賞をもらった。それは知っていたが、それがらみで『新潮』2018/2に「パン屋さんと学者の仕事」を書いていることを最近知って、わが専用図書館で調べてみた。そこにこんなことが書いてあった(pp.300-301)。

 「学者稼業の人間は、学問をやることができるようにと、いろいろ優遇されている。いろいろ面倒もあるとはいえ、やっぱり、学問をやるための自由な時間を大量に保証されて、必要な資料等を入手する便宜もはかられている。しかしこれは、与えられたものである。我々がしっかり仕事をするようにと世の中の皆様から与えられたのだ。とすれば、その学問の成果は、与えて下さった方々にお返ししないといけない。・・・ つまり学問の成果も、少なくともそのことに興味を持つすべての読者の方々に、十分に明晰でわかり易い仕方で提供されないといけない。・・・ 読者が専門家の書いたものをお読みになって、どうも何だかよくわからいね、とお思いになったら、それは、その読者に理解力が不足しているからではなく(そういう場合もないとは言わないが)、たいていは、その学者さん自身が事柄をよくわかっていないから、それでうまく説明することがおできにならない、というだけのことである。 ・・・ このたび七巻八冊の大著を仕上げることができたが、この程度の仕事をやったとて、自慢にはなるまい。・・・ 世の中の多くの方々が黙ってそれぞれの義務を果たしていらっしゃるのだから。」

 それを読んで、久し振りに弓削達氏が似たようなことを昔書いていたのを思い出した。大学教員は、国立はもとより、私立でも給与の半分は私学助成、すなわち国民の血税で養われているのだから、学問的成果を国民にお返しする義務がある、とどこかで書いてあらしゃった。

 私など、常日頃、自分の不勉強は棚に上げ、ろくに社会還元もせずに「ああ、研究費がもっとあれば・・・」と身の不甲斐なさをかこち不満ばかり言っているので、こういう謙虚なお言葉に触れると、深く反省させられる。かろうじて、年間一本をとにかく書くことを自らに課してはきた。それでいばれることでもないし、わかりやすく書けていたかどうかは、だましだましの内実を一番よく知っているので、胸張っていうことはできないが。

 しっかし、それにしても、国民からの禄を食みながら、ロクに論文すら書かない(書けない、書けなくなった)大学教授がいらっしゃるようだが、なにをお考えになっているのか、頭の中をかち割って覗いてみたい気がする。たぶん納税者のことなんか、意識もしていないのだろうな。

 と、まあ他人のことは簡単に言えちゃうわけですが。

【補遺】ここで述べておこう。私はこれまで私なりに将来追求しようと思ってきていた研究ネタを「企業秘密」と称して秘匿してきたが、ことここに至り先のない身であるので、公表していく。願わくば、立志後進の益ならんことを。

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