画像チェックしていたら偶然1995年のサバティカル時の写真が出てきた。ローマに滞在したとき、しょっぱな何に驚いたかというと、お茶を飲もうと水道水を湯に沸かすととんでもない現象に出会ったことだ。湯に雪が降ったようになるのである。
白い粒子は言うまでもなく石灰である
そしてこれは写真に撮ってはいないが、紅茶や緑茶の葉っぱやティバッグを入れると、湯が対流しているのが目視できる、あれはなんだろうか「かす」みたいなものが水中をぐるぐる回り、あろうことか湯の表面に虹色に光る金属膜みたいなものさえ。
もちろん飲んでおいしいものではなかったので、母が持たせてくれた緑茶はすべて捨てた。そのあとで在伊が長い邦人に聞いた所によると、日本茶は、一度湧かした湯の上澄みをとって、それをも一度湧かし、その上澄みで淹れると飲めるようになるのだそうだ。・・・なるほど。
それで体感的に、あの石灰分の多いイタリアの水に合うのがエスプレッソなんだろう、と思ったわけ。そうそう思い出した。アルル方面めざして鉄道でアルプスの西の国境を越えた所の、フランスのChambéry駅だったと記憶するが、深夜にそこの自販機でエスプレッソ飲んでみたが、すでに美味しくなかった。コクと香りがない。またスペインの東海岸を列車で南から北上していくにつれ、徐々にエスプレッソらしくなってきたのもいい体験だった。要するにエスプレッソの世界はアルプス山脈の南側なのであろう。
そして、サバティカルの1年間、例のマッキネッタBialettiを使っていると内側に石灰の成分が付着して純白の膜がキラキラ光るようになる。それを帰国して日本の水道水で使っているとぬるっとしたきたない象牙色に澱んでくる。それを見ていると郷愁に駆られてしまっている自分がいる。
日本では自宅での水道水はもとより、なぜかイタリア製のミネラル水でも、またどんな本格的なリストランテでもエスプレッソ飲んで美味しいと感じたことはない。すべては水なのだ。
【付論】では「紅茶文化」のイギリスの水はどうなのかと気になって、ちょっと調べてみたら、硬水の地区と軟水の地区に分かれていた(https://www.bristan.com/hard-water-map;https://japanesewriterinuk.com/article/water-in-uk.html)。
なんと案に相違して、イングランドは硬水が主体の地区なのだ。ということは、そこでは紅茶はどうやって淹れていたのか・・・。答はどうやら葉っぱのブレンドと軟水の入手、にあったらしい(https://ringtons-japan.jp/hpgen/HPB/entries/39.html)。
それで思い出した。大昔、ロンドンのホテルで部屋に置いてあったリプトンの一番安いティーバックを水道水で淹れて飲んだ紅茶のおいしかったこと! ブレンドがロンドンの水道水に合わせて調合されていたのだろう。それで感激して、そのティーバッグを日本に持って帰ったのだが、日本の軟水で淹れても再現できなかった理由もそこにある。だからイギリス直輸入の葉っぱを無自覚で飲んでいる限り、ひょっとすると思い出を飲んでいるだけのことなのかもしれない。味が違う!、というわけでミルクいれて流し込むのが落ちか(じゃあ、ヨーロッパ渡りの硬水のミネラル水で淹れたらどうだ、というとこれでもだめらしい。水に含まれる空気が重要で新鮮な「汲みたての水」でなければいけないらしい:これはイタリアのそれでエスプレッソ淹れても同じことでありんしたねえ、と納得)。すべては水なのだ。
これは東京も広島もだが、嫁さんお好みで、百貨店の地下なんかで英国渡りのアフタヌーン・ティーなんかに行ったことあるが、スコーンやサンドイッチはともかく、ブラックティーがはそんなに抜群とは感じなかった。もともと私は紅茶が体質的に若干難があるので(妙な覚醒反応があるのだ)、ストレートではなくミルクでごまかす方なのだが。
うちの嫁さん、大きな缶でイギリス紅茶をありがたく飲んでいるので、こんど軟水用のを買ってあげて男を上げようかな。
【後日談】日本の水でおいしいという触れ込みの「ヨークシャー」のリーフカートンとティーバックを試しに買った。試供品のティーバッグを試して見ると、気のせいかソフトな口当たりでいい感じなのだが、嫁さんは無反応。