多少とも古代ローマ貨幣に関心を持つ者は、経済状況の悪化による貨幣改鋳という現実を知っているわけだが、イギリスの研究者たちによる最先端の研究で、そういった一般論が部分的に修正される可能性がでてきた。2021/11/16(https://archaeologynewsnetwork.blogspot.com/2021/11/all-that-glistened-was-gold-roman-coin.html)
すなわち、従来は、ローマ帝国の流通貨幣であった銀貨(や青銅貨)の成分研究により、例えば銀貨には実際には銅が多く含まれていることを隠すため、わざと銀貨であることをもっともらしく装うため、貨幣表面の銀含有を多くする工夫がなされていたので(その具体的技法を私は知らない。メッキだったのだろうか)、金貨でも同様という可能性がこれまで言われてきていた。確かに出土数量が多い銀貨・青銅貨では溶解して成分比較することも可能だが、金貨ではそれははばかれる(まず一枚15万円以上はする:さっき調べたらコンスタンティヌス大帝の落札価格は75万円だった)。そこで活用される調査方法として非破壊技術が採用される。
オックスフォード大学のGeorge Green博士たちはミューオンX線発光分光法を使用した。これは考古学的対象物の表面下深くからサンプルを採取できるすぐれた非破壊技術だそうで、ティベリウス帝(後1世紀初頭)、ハドリアヌス帝(後2世紀初頭)、ユリアヌス2世(後4世紀半ば:記念貨幣使ったのかそれともソリドゥスだったのか不明)の三枚の金貨を検査にかけて、それによって、金貨の表面がコインの大部分を代表していることが実証された、と。なぜかえらく恣意的選択でかつ少数の調査に思えるのだが。オックスフォードならもっと多数の所蔵品があるはずだ。逆にいうと、この程度の調査だったら日本でもできる。
ローマ帝国において金貨は流通貨幣ではなく、主として内外に対する記念・贈答用だったので、ある意味で皇帝の威信にかかわっていたわけで(但し、コンスタンティヌス1世創設の流通金貨「ソリドゥス金貨」Aureus Solidus[4.48g, 純度95.8%]は別)、それが金貨全体の同一品質となったのであろう。ただそれにしてもコインの金含有量は色々だったはずであるが。
そして、こういう調査すらできない(しようという発想も湧かない、というべきか)我が国考古学の不甲斐なさを憂いたくもなる。機械は借りればいいだけのことだろうに。とはいえその賃貸料も文系研究者にとっては頭の痛い問題ではあるが。