月: 2023年5月

民主主義か権威主義か

 75歳になって理想論の空しさを実体験してきた身としては、こういった言葉の空虚さに一種の絶望感すら感じている昨今、以下の発言をみつけた。

朝日新聞デジタル(但し有料)

2023/3/31:佐伯啓思「旧約聖書から考えるウクライナ侵攻 西欧の歴史観は「普遍的」なのか」https://digital.asahi.com/articles/ASR3Z3FLPR3QUPQJ001.html(それすら建て前論とするマライ・メントライン女史のコメント:「物心にわたって余裕ある者たちによる市場支配のための文化ツールにすぎないのではないか」、も読むべし)

2023/5/30:インタビュー「「歴史の終わり」の真意、そして新しい危機 フランシス・フクヤマ氏」https://digital.asahi.com/articles/ASR5V64LBR5TUPQJ00S.html?iref=pc_opinion_top__t

 私のブログでもかつて紹介したことがあるが、世界人口の70%が独裁国に住んでいる(https://news.yahoo.co.jp/byline/nishiokashoji/20220308-00285498)、という現実を、私はそれまで知らなかった、という愚鈍さに自ら驚いている始末なのだから、困ったものだ。下図の青や薄青の国々だって一皮むけば偉そうなことはいえないのが現実だ。すべてが「虚構の産物」であるという認識が必要だ。

 文字通り、偉そうに、西欧世界の言葉に踊らされてきていた自分の不明を恥じるほかはない。現実をこそ直視すべきなのに。どういう社会体制であろうが、プラス面とマイナス面が併存していて、それが現実社会を織りなしてきているのである。その一方の旗手だった西欧的世界観が崩れだしているという流れの中で、さて我々はどう生きていくべきか。先の見えない、重たい選択である。中国的権威主義も案外庶民には暮らしやすいのかもしれないのである。

 ↓これが民主国家のあるべき姿か:今般の補選で4区だけは世襲とならなかった。

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ハト被害に悩む

 この前、忙中閑あって鎌倉に行った。家への土産を考えたのだが、「鳩サブレ」だけは御免でした。というのも、今住んでるマンションでここ数ヶ月ハトに手こずっているからだ。なにが平和の象徴だ。

 我が家のベランダの隅にちょっと大きな藤製のラックを置いていたら、いつの間にかその裏がつがいの居場所になっていたらしくて、白いフンとときどき「くうくう」と声がするので、行ってみてそれが分かった。追い出そうといろいろやってみたがダメで(光り物や烏の死体様のものをぶら下げたり、スプレーや音声発生装置を買ったり)、なかなかしぶとい。時には別の数羽が飛来するときもあって、こっちが顔を見せて声で脅しても何の効果もない。ふてぶてしいことこの上もない。

 なにしろ「鳥獣保護法」というのがあって、許可なく鳩を捕獲したり、怪我を負わせたりした場合は法律違反。雛や卵を移動することも禁止されていて、もし違反した場合には100万円以下の罰金か、1年以下の懲役を課せられてしまう、のだそうだ。ここでも被害者保護のほうはないがしろになっている・・・。正式には許可をとっている業者に頼んで駆除するしかない。

 そうこうしていると、今度は玄関外の吹きぬけに出っ張っているエアコン室外機置き場で、やっぱりつがいが、網の重なりの隙間をくぐって侵入したらしい。賢いし、舐められたものだ。なにせ、生身の人間にはいけない場所に置かれているので、こっちはマンションの管理人さんたちが、長い棒を操って、かけていた網の隙間を金網で押さえるなど色々やってくれて、それで室外機の下の空間に卵状のものが遠目で視認され、道理でしつこかった理由が分かった。本当は室外機の下をきれいに掃除したいのだが、それができないのだ。

 ベランダには今日も二羽きていた。がちゃがちゃと手すりで音をたてると飛び去ったが、またやってくるだろう。糞害もバカにならないしなあ。こうなるとラックを解体して処分するしかない、ということでテレビで宣伝していた電動のこぎりを発注したが、まだこない。【来たけど、安売りだから本体だけで、必需品のチェンソーオイルなんかを追加注文するはめに】

【追記】上を書いてからちょっとして見にいったら、玄関のほうに1羽来ていた。いつもと同じく私を見ても逃げようともしない(下の写真左の窓枠にご注目)。よくよく見てみるとこれまで室外機の手前にみた記憶のない白いものと黄色い液体が。ということは、網の外から卵を手元にたぐり出そうとして、あそこまでもってきたところで割ってしまった・・・らしい。たぶん不安定な姿勢での作業で、涙ぐましい努力である。こんな調子で卵に執着しているのにはほとほと感心するが・・・

 卵は壊れたのにまだ諦めきれずに来ているのが哀れである。子殺しが頻発している人間様に較べ、なんと母性が強いことか(この子育ての本能ってどこからくるのだろうかと改めて思うことしきり)。人間に無関係なもっと安全なところで巣作りすればいいのに、と思うが、ここが彼らにとってより安全という判断なのだろう。妻に言わせると、そばの豊島園から烏がいなくなったので、ハトが大きな顔しているのだろうと。そういえばカアカアの鳴き声はほんと少なくなった。

 翌日、管理人さんがやってきて言うには、またどこからか入り込んでる、もひとつ卵があるのだろう、と。長く伸ばした棒でつついて母バトを追い出し、網を張り直し、金網を置き直し、ペットボトルを差し込んで、と果てしなく続くハトとの戦い・・・。

 と思っていたら、6月になって来なくなった。ようやく卵をあきらめたようだ。ベランダのほうも同様だ。最終兵器のネバネバを2千円以上かけて購入し、電動カッター関係一式がやっと揃った途端にこれだから、なあ。

 と思っていたら、ベランダの方にはまたやってきて、くうくうと鳴いている。妻がせっかく買ったネバネバを貼ったらと思い出させてくれたのでさっそく置いてみたら、すぐにそれを踏んだ痕跡が。だけどそれで懲りたようにはみえないのが、残念。

 6/25:ところでお隣の豊島園がハリー・ポッターに衣替えして、そのせいかまた烏が帰ってきた(訪問客たちの落とす食べ物のあるなしだろうが、家の中にいても烏のバサッという羽音は聞こえる、ハトは鳴き声だけだ)からだろう、このところハトの姿がそう見えない。有難いことだ。

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広島サミットは失敗か

 5/20まで故郷に帰っていた。最初は雨が降っていたし、週末は市内の交通規制がうるさかったので、今回は寺参りはしなかったのだが(亡父の誕生日があったけど)、NHKの広島版を見ることができて、これって東京なんかにいたら見ることできなかっただろうな、と思うこともあった。

 被爆者一人と会う時間を含めてたかだか40分の(通称)原爆資料館訪問、そしてそこで何が話されたのかについての箝口令に(おそらく小役人によるこざかしい振る舞い:だけどこういう情報はあとからポロポロ洩れてくるものだが)、被爆者たちは冷たい行政の壁をまたもや感じ取ってしまったのだろう。そのあたりがストレートすぎるかたちで出た当日の生放送での小野文惠アナウンサーのあしらいは彼女ならではで、逃げもせずさすがだったが、本音では困っただろうなと想像する。

 広島市に本社ある中国新聞デジタルをみても、すでに「サーロー節子さん、広島サミットは「失敗」」といった記事が掲載されていて(https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/308690)、要するに、被爆者は核兵器の存在を認めた上での論義を容認することはできないという立場からするなら(私はこう考えるのは一部の被爆者と思っているが、マスコミは得てしてこの種の見解を採用しがちだ)、政治家たちの妥協だらけの言説など聞きたくもないわけであろう。しかし民主主義における政治とは妥協の産物なのだから、一歩前進のために三歩後退の連続だってありえるわけで、だからそのような性急な判断を下すのはどうかなと思う。それは核兵器禁止条約(2021年発効)批准問題の評価にも表れているが、核拡散防止条約(1970年発効)には日本も参加しているので、混同しないようにしたいものだ。実は私も混同していたのです。

 とまれ、サミットへのゼレンスキー・ウクライナ大統領の登場が、すべていいとこ取りして話題をさらった感がある。その嗅覚はさすがと言うほかない。このサプライズ企画の飛び入りで儀式的な会議の退屈さが、一挙にリアルな精彩を帯びることとなった(アメリカの策謀という説あり:「まるで「ゼレンスキー劇場」の広島サミット“失敗”に気づかぬ岸田政権の大罪」https://www.mag2.com/p/news/577124/4)。そのおこぼれで岸田首相の支持率が9ポイント上昇して45%となり、不支持率とはじめて拮抗するまでになった由であるが(https://mainichi.jp/articles/20230521/k00/00m/010/120000c?utm_source=article&utm_medium=email&utm_campaign=mailsokuho&utm_content=20230521)、まあこんな数字は一時のまやかし、ご祝儀に過ぎなくて、化けの皮はすぐはげるだろう、残念ながら。

 本日7:30から約90分のフジテレビの日曜報道は出色だった。なにせ映像の背景場所が広島市南区に辛うじて保存されてきた旧陸軍被服支廠倉庫内からで、そこで「平和都市」ヒロシマが実は日清戦争以降戦前においては「軍都」広島として著名であり、今般のサミットの会議が行われた宇品島などは、大陸に兵士を送り出す主要軍港だったことを想起させつつ、それを象徴しているのがレンガ造りの被服廠倉庫なのである、という幾重にも絶好のロケーションだったからである。

 同時刻の他の番組に出ていた政治評論家の宮家邦彦(栄光学園中高等学校第20期から東大)がいい指摘をしていた。そもそも2014年のロシアのウクライナ侵攻の時、日本は何の動きもしなかった。それが今回の侵攻の伏線になっているのだが、その時の日本の外務大臣は誰あろう岸田であった。その彼が今さらなにをしようというのか、と。その尻馬に乗っていうと、岸田は正確には広島出身でない。彼の父はそうなのだが、親戚に被爆者がいるにしても、彼は東京生まれ・東京育ちである。選挙区が親譲りの広島一区であるだけだ。

 で、ググって以下のような系図を見つけて驚いた。今回、全面批判していたサーロー節子さん、なんと岸田首相の遠いけどご親戚だったとは。出身高校は米国南メソジスト系プロテスタントの広島女学院中高等学校・同大学卒(地元では省略して女学院と呼んでます)。彼女、「核兵器廃絶国際キャンペーン」がノーベル平和賞を受賞したとき組織の一員として授賞式演説をしたこともあり、だからあんなふうに言えるのかな、マスコミがとりあげるわけだ、と。知らないことが多すぎる。そしてなんと世間は狭いこと(参照、八幡和郎『家系図でわかる日本の上流階級:この国を動かす「名家」「名門」のすべて』清談社Publico、2022年)。

 ただ彼女を含めた岸田家系図はこれひとつであった。むしろ宮澤喜一経由で・鈴木・麻生・安倍とのつながりのほうに世間の注目は向いている。

 ところで、原爆資料館で今回ただ一人で七ヶ国首脳に英語で証言した小倉桂子さんも、節子さんと同じ学歴である(彼女の亡夫は原爆資料館長だったので、コントロールしやすいと踏んでの人選か)。ここまで触れるとついでに、岸田総理の妻の裕子さんも女学院中高卒でありますと言っておきたくなる(彼女の出身大学はやはりプロテスタントのクエーカー系の東京女子大)。

 女学院、来年度の生徒募集は安泰だろうな、きっと(我が家の菩提寺は広電白島線終点前にある。あの電車に乗ると学校前の大きな看板がいやでも目に入るのだ)。

 2023/5/30:岸田の奥さまは広島に留まって選挙地盤と子育てに専念してこられた由だが、「バカ息子」がすっかり定着してしまった32歳の長男翔太郎騒動の顛末で、庶民の溜飲だけは確実に下がった感がある。しかし公用車使っての観光や買い物なんかはむしろ大使館のほうが率先しての忖度で、国会議員なんか平気でやっているのではと思ってしまうし、公邸での親戚コンパの写真がどうして文春に洩れたのか、つけ狙われて揚げ足をとられたとしか思えないので、当事者たちはさぞ不本意だろう。ま、衆愚政治の現代に生きるセレブとしては脇が甘かったわけだ。

 とはいえ、そもそも批判をよそに経験不足の息子を政務秘書官に任命してはばからなかった「バカ親」のほうが本当は問題だ。長男がダメなら替えもいるようなので余裕をかましている感じだが、3代目で家業が潰れるという格言もある。「石を投げれば世襲にあたる」とか「2世には負い目意識もあるが、3世にもなると特権意識ばかり」との揶揄もきこえてくる。かくしてぼんくらは自滅していくのが民主主義と信じたいところであるが、さてどうなるであろうか。山口二区の岸家もご同様なのだが、こっちはとりあえず世襲が成功したようでなんだかな。

 比較になりはしないが、私もある意味3代目なので家族メンタリティーの崩壊は実感するところがある。4代目は既得権に乗っかるだけで、切り拓こうとはしないものだ。創業者としての気概をもってほしいのだが、親はそうは思っても子にうまく伝わらないのだから、ま、その程度の雑魚血統だったと思って諦めるしかない。

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このところ、詐欺メールがやたら多くて

 たぶんどこかの大手業者から私のアドレスが漏れたせいなのだろうか。さっき届いたのを紹介するが、こんな調子のメールが大量に送られてくるようになった。

>弊社のモニタリングによると、異常ログインを発見し、お客様がご利用してい
>るお支払い方法を変更したいと考えています。
 
>お客様の個人情報を保護するため、以下の措置を行います
>--アカウントを一時的に無効します。
>--不正アクセスによると他の変更は無効になります
 
>お客様のアカウントを再度に有効することができるため、下のリンクをクリッ
>クして、指示された手順に従ってください。

 もう慣れたので読まずにすぐに消しているが、「カウントの不正使用に関する重要な連絡」なんて題名のメールがやたら送られ来るようになった。まともな日本語表現になってきたのには努力が認められて感心するが(だけどさっき来たのには「おメールでのお問い合わせ」なんて表現が)、笑うしかないのは、私の人生でこれまで一切無関係の銀行名からだったりするのは、ちょっと手抜きもたいがいにしてよ、と。

 最近の新手なのだろうが、信販会社を騙って、埼玉県○○市の誰某様にお届けするルイヴィトンのバッグ2万9千円のご注文ですが、とか書いてあるものが数回送られてきたが、本当だったら怖いなあと思いながら、即嘘でしょと無視してるが、だいじょうぶだよね。

 それが日常的に使っているアマゾンとかだと、登録カードの部分的取引停止を臭わされると、やっぱりちょっと動揺せざるをえないのだが、実際には平気で変わらず発注できていて実害ないものだから、結果的に無視している。

 同時に、何百日間使用されていないので、このままだと登録抹消しますという通知も多くなったが、これはまあ断捨離としてむしろ歓迎して放りっぱなしだ。

 しかし、これがもちょっとして私が痴呆がかってきたらどうなるのか。そっちが今から心配だ。運転免許と同様、メールアドレスも返上したほうが無難だとはおもいつつも、便利さにかまけてなかなかむつかしい。

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痛めた膝の湿布薬:月中仙ゲルパップの効きがいい

 この3月のイタリアで雨の中で例の石畳の坂を歩いていて滑ったときに、右膝の筋を違えたようで、ローマに到着してN医師の針がついた絆創膏で凌いで、帰国後、行きつけの整形外科でもらっていた絆創膏を貼ってみたが、全然効かず、座っていて立つときなどかけ声かけないといけない感じで、おお75歳にしてと諦めていたのだが、勉強会で人生の大先輩に愚痴ったら、「よく効くのをご紹介します」というわけで、「月中仙ゲルパップ」を紹介してもらった。

 しかしAmazonなんかではヒットしないのでもう諦めようかと思って(なんと発売元のHPに行っても商品リストにない!、これいかに)、それでもあきらめ悪くあれこれググっていたら、なんと静岡の薬局で販売していることが判明、おおおと勇んで申し込んで届いたものは、なんとなく昭和、それも戦前の漢方薬を思い出させる風情のデザインの箱。さっそく試したが、これがなんか予想以上に効きがいい感じ! 効能書きでは「オウバク末5g配合」とのことで、衣服につくと黄色が移るのでご注意くださいと薬局のご主人からメールでご注意もありました。

https://ishikawa-kusuri.shop-pro.jp/?pid=161933635

 10枚入りで税込¥1056で、さらにこれを貼るには「伸縮性粘着シート」が必要で、50枚で¥938かかる。医療保険でのに較べるとかなり割高だとは思うが(高額の後期高齢者医療保険料を徴収されているから、成人病関係でいつも1ヶ月の薬代しめて1400円しか払ってないけど、効かない薬なんか無意味でしょ)、こっちをしばらくは使ってみようと思う。もちろん完治は無理だろうが、日常的な痛みを散らすことはできそうなので。

 しっかしそれにしても、最近はジェネリックだとかに乗り換えさせられて、私でも以前の方が効きがよかったという感じがしているが、一体全体なんのための保険なのか、ちょっと原点に帰って考え直してほしいと思う。安けりゃいいというわけじゃないはずだ。無駄なものを垂れ流してたら、そっちがよほど医療保険の無駄遣いというものだろうに。口コミの恐ろしさを知らせてやりたくなる。

 最近のTV販売は我らの世代をターゲットにしてサプルメント類が目白押しだが、テレビ会社に高額の放映料払っているせいかどれもこれも廉価を唄っての大量販売、大袈裟に効用を謳っているが何ら効果のないものばかりのような気がする(昔から「薬九層倍」とはよく言ったものだ)。そんな中で、もしどうにかならんかと苦しんでいる人がいたら、騙されたと思って一度試してみてください。少なくとも私は痛みが楽になりました。

【追記】朝日新聞が2023/5/15以降ジェネリック業界の話を特集していた。5/19が最終回の第5回目(但し,有料):https://digital.asahi.com/articles/ASR5974NGR3BPLFA003.html?pn=17&unlock=1#continuehere

記事によるとやっぱりいい加減なメーカーも多い実態があるようで、それも効きの悪さの原因かもしれない。

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化石ハンター、メアリー・アニングのこと

 急いでやらなきゃいけないことあるのに、そんな時にどうして、と思ってしまうことがときどきある。忙しいときに限って周辺がらみで気になる情報に接してしまい、そっちをいじっているうちにそっちのほうがもっと面白くなってしまい、まあこれも天からのお告げと得心して横道にそれるのも私のサガなのであろう。

 今般は、遅ればせながら以下の記事に接した。2022/12/24:篠田航一「少女はなぜ首長竜の化石を発見できたのか 男性中心社会で英学会に入れず今年ようやく銅像に」(https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20221220/pol/00m/010/007000c?dicbo=v2-vpazFtV)。

 これを読んでいて、あ、映画見たことある、と思い出すことがあった。歴史上の実像はメアリー・アニング(Mary Anning、1799/5/21-1847/3/9)。ドーバー海峡の烈風が吹きすさぶ陰鬱なイングランド南部のライム・リージスの、貧しい労働者階級の出で家計の足しに近くのブラック・ベンと呼ばれていた海岸断崖から出てくる化石を拾って避暑に来る金持ちの観光客にみやげ物として売りつけていたが、わずか12歳で魚竜イクチオサウルスの、24歳で首長竜プレシオサウルスの完全骨格を世界で初めて発掘した化石ハンター。独身のまま47歳で乳がんで亡くなった。当時の閉鎖的な男性社会の学界には十分その功績は認知されなかったが、ダーウィンより10歳早く生まれていたので、彼の進化論的発想にも影響を与えた独学の地質学・古生物学の先駆者だった。

左、ロンドン自然史博物館での彼女発見の首長竜プレシオサウルスの展示;右、彼女の近所に住み親しかった英国地質研究所初代所長デ・ラ・ビーチが描いたメアリー像(https://dot.asahi.com/dot/2021040700021.html?page=1)

 かくして偶然見た、ドラマ映画「アンモナイトの目覚め」(2020年フランシス・リー監督:イギリス・オーストラリア・アメリカ製作)の記憶が呼び起こされた。いかにも19世紀半ばのイングランドの鬱積した雰囲気充満の風景の中で、同性愛者の監督の独創的な脚色のもと、二人の主人公役ケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンの虚実入り交じった優れた演技が光っていた(https://ja.wikipedia.org/wiki/アンモナイトの目覚め)。私にとって一幅の絵画とおぼしき画像の連続だった(https://blog.goo.ne.jp/taku6100/e/40288ea92e012f39bd938e0ebf534922)。いや実際は逆で、当時の絵画のノスタルジックな連続映像の映画だったというべきか。

実際の二人はメアリーのほうが11歳年下だった

 映画監督の新機軸はらしく二人を同性愛関係で描いたことにあったが、従来説の、失業状態の夫をけなげに支える富裕商人家系出身の妻が11歳年下の女化石ハンターを取り込んで利用しようと画策して、というほうが説得力あると感じる私は、やっぱり男性社会優位思想に毒されているのだろうか。

 これには本もある。古川惣司・矢島道子『メアリー・アニングの冒険:恐竜学をひらいた女化石屋』朝日選書、2003年。我が図書館にもあるので、購入はしないですむ。

 

 解説文によると、メアリーはジョン・ファウルズ作『フランス軍中尉の女』(1981年映画化)のモデルでもあった由で、題名が私には腑に落ちず、Amazonでしらべたら、古書で8000円の値がついていて、我が図書館にもないが映画のビデオのほうはあった(ちなみに、オパックで調べたら、小説は国内27大学図書館・研究室が所蔵しているが、逆にビデオは2大学のみ)。そこで、小説のカスタマー・レビューを読んでみたのだが(特に、三好常雄氏の:詳しくはそれをお読みいただきたい)、ビックリだ。そこでは、映画の筋とはまったく異なったストーリーが展開していて、貴族になり損ねた男と、化石ハンターの彼女のその後の成功譚の話になっている・・・。いやはやここでも、事実はひとつしかないが、それを見る人々によっては千変万化なのだ、なあ。

 思い起こせば、2020/7/30のブログで、恐竜化石ハンターに触れていた。ひょっとして私はこういう話題が好きなのかもしれない。

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パラティヌス丘の「移動宮殿」・トイレ公開

 これもコロナ禍でうっかり見逃していたのだが、2019年に、パラティヌス丘のドミティアヌス宮殿の地下に残存していた「移動宮殿」Domus Transitoriaが10年の歳月を費やしての修復後に、70年振りに一般公開された。この宮殿の名称は、後60年ごろに、皇帝ネロとその従者が姿を見られずローマ内の皇室施設に移動できるようにパラティーノからエスクリーナ丘にかけてトンネルを作らせた構造に由来している。しかし後64年のローマ大火で廃墟となったので、新たにより壮大な「黄金宮殿」Domus Aurea 建設の動機となった。帝没後の諸皇帝は彼の記憶を抹殺すべく埋め立てたり、他の建築物に流用してきたので、18世紀始めに発掘されるまで忘れさられた存在だった。

 この宮殿には、豪華な宮殿で働く奴隷や被解放奴隷が使用した50席の大共同トイレがあり、今回ここも見学することができる。

 実は、かねて私はこの下にトイレがあり、そしてそこにフレスコ画や落書きがあることを情報としては知っていて、これまで恨めしく、パラティヌス博物館裏手のこの地下への階段を眺めていたものだった。数年前に地下のそのすぐそばでこれも偶然展示会があったときは、監視人の目を盗んで闖入したいと本気で思ったほどだった。そのくせこの3月の渡伊の機会に訪問することをしなかった、いや公開を知らなかったので、という間抜け振りだ。

 かくしてこれが公開されているうちにローマ詣でしなけりゃという口実が私に芽生えたのである。やれやれ。これだから研究は切りないなあ。

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