化石ハンター、メアリー・アニングのこと

 急いでやらなきゃいけないことあるのに、そんな時にどうして、と思ってしまうことがときどきある。忙しいときに限って周辺がらみで気になる情報に接してしまい、そっちをいじっているうちにそっちのほうがもっと面白くなってしまい、まあこれも天からのお告げと得心して横道にそれるのも私のサガなのであろう。

 今般は、遅ればせながら以下の記事に接した。2022/12/24:篠田航一「少女はなぜ首長竜の化石を発見できたのか 男性中心社会で英学会に入れず今年ようやく銅像に」(https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20221220/pol/00m/010/007000c?dicbo=v2-vpazFtV)。

 これを読んでいて、あ、映画見たことある、と思い出すことがあった。歴史上の実像はメアリー・アニング(Mary Anning、1799/5/21-1847/3/9)。ドーバー海峡の烈風が吹きすさぶ陰鬱なイングランド南部のライム・リージスの、貧しい労働者階級の出で家計の足しに近くのブラック・ベンと呼ばれていた海岸断崖から出てくる化石を拾って避暑に来る金持ちの観光客にみやげ物として売りつけていたが、わずか12歳で魚竜イクチオサウルスの、24歳で首長竜プレシオサウルスの完全骨格を世界で初めて発掘した化石ハンター。独身のまま47歳で乳がんで亡くなった。当時の閉鎖的な男性社会の学界には十分その功績は認知されなかったが、ダーウィンより10歳早く生まれていたので、彼の進化論的発想にも影響を与えた独学の地質学・古生物学の先駆者だった。

左、ロンドン自然史博物館での彼女発見の首長竜プレシオサウルスの展示;右、彼女の近所に住み親しかった英国地質研究所初代所長デ・ラ・ビーチが描いたメアリー像(https://dot.asahi.com/dot/2021040700021.html?page=1)

 かくして偶然見た、ドラマ映画「アンモナイトの目覚め」(2020年フランシス・リー監督:イギリス・オーストラリア・アメリカ製作)の記憶が呼び起こされた。いかにも19世紀半ばのイングランドの鬱積した雰囲気充満の風景の中で、同性愛者の監督の独創的な脚色のもと、二人の主人公役ケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナンの虚実入り交じった優れた演技が光っていた(https://ja.wikipedia.org/wiki/アンモナイトの目覚め)。私にとって一幅の絵画とおぼしき画像の連続だった(https://blog.goo.ne.jp/taku6100/e/40288ea92e012f39bd938e0ebf534922)。いや実際は逆で、当時の絵画のノスタルジックな連続映像の映画だったというべきか。

実際の二人はメアリーのほうが11歳年下だった

 映画監督の新機軸はらしく二人を同性愛関係で描いたことにあったが、従来説の、失業状態の夫をけなげに支える富裕商人家系出身の妻が11歳年下の女化石ハンターを取り込んで利用しようと画策して、というほうが説得力あると感じる私は、やっぱり男性社会優位思想に毒されているのだろうか。

 これには本もある。古川惣司・矢島道子『メアリー・アニングの冒険:恐竜学をひらいた女化石屋』朝日選書、2003年。我が図書館にもあるので、購入はしないですむ。

 

 解説文によると、メアリーはジョン・ファウルズ作『フランス軍中尉の女』(1981年映画化)のモデルでもあった由で、題名が私には腑に落ちず、Amazonでしらべたら、古書で8000円の値がついていて、我が図書館にもないが映画のビデオのほうはあった(ちなみに、オパックで調べたら、小説は国内27大学図書館・研究室が所蔵しているが、逆にビデオは2大学のみ)。そこで、小説のカスタマー・レビューを読んでみたのだが(特に、三好常雄氏の:詳しくはそれをお読みいただきたい)、ビックリだ。そこでは、映画の筋とはまったく異なったストーリーが展開していて、貴族になり損ねた男と、化石ハンターの彼女のその後の成功譚の話になっている・・・。いやはやここでも、事実はひとつしかないが、それを見る人々によっては千変万化なのだ、なあ。

 思い起こせば、2020/7/30のブログで、恐竜化石ハンターに触れていた。ひょっとして私はこういう話題が好きなのかもしれない。

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