月: 2021年6月

海がきれいすぎてっておかしくない?:飛耳長目(85)

 今日の毎日新聞デジタル版に「きれいすぎて・・・海産物の栄養が不足:海の豊かさ各地で模索」(有料記事)が掲載された。

 窒素やリンが流れ込んで赤潮が云々されていた時代とは、これまたえらい違いで、私はいささかビックリしたが、下水処理の行き過ぎで栄養塩が少なくなりすぎた、という判断には若干違和感が。対処療法みたいな。

 よく、川の上流の森林資源が海の豊かさに繫がっているという話を聞いてきた身からすると、上流の森林資源の枯渇化が原因の一因にあるような気がしてならない。それはサケ・マスなんかの遡上産卵にも影響してくるだろうし。

 私の専門領域の地中海世界は、観光ガイドレベルのエーゲ文明やギリシア文明の「白壁と透明で豊穣な海、魅惑の地中海料理」といった宣伝イメージと違って、実は魚影が薄い海なのである。ただ古代には小型のクジラも遊泳していて捕獲していたらしいので、「現在は」というべきなのであろう。

 その原因としてこれまで言われていたのは、大陸棚がなくて一挙に深海に落ち込むせいでのプランクトン不足、という地質構造的な説明だった(たしか、F.ブローデル『地中海』だったと思う)。私はそれで納得させられてきたのだが、今回の記事読んでもしやと思いついた。もちろん素人考えに過ぎないが、古代社会における森林資源の枯渇化が根本原因だったのじゃないか、と。さてどうでしょう。

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ローマ帝国辺境からトランペット?出土

 私はローマのコンスタンティヌスのアーチ(凱旋)門の図像を扱ったときに、若干ながらローマ軍の軍用楽器に触れる機会があった(http://www.koji007.tokyo/wp-content/uploads/2018/11/312年コ帝図版補遺決定稿.pdf)。今回、それと関係ある新発掘情報が眼にとまったので、紹介したい(https://archaeologynewsnetwork.blogspot.com/2021/05/french-archaeologists-discover-rare.html)。

                            Bagacum

 今年の4月のこと、なんと発掘場所は現在ベルギーとの国境に接したフランス北部のノール県の主都バヴェBavayで、ここはかつてガリア・ベルギカ属州のBagacumで、もともとこの周辺に住んでいたNervii族の主邑で、交通の要衝であった。アウグストゥス時代にローマ都市になり(前16-前13年ごろ)、フランス随一の広さを誇る広場forum(約2.5ヘクタール)も建設され、都市を守るための頑丈な城壁や要塞も残っている(高さ8m)。

 その広場に見学用の通路を建設工事中に、曰くありげな3つの石灰岩の石板がみつかった。その下から出てきたのは、不思議な奉納物だった。出てきた物は数本の金属棒で、考古学者はそれらを後3-4世紀に作成されたガロ・ローマ時代の解体されたトランペットで、マウスピースからベルまで揃った、組み合わせると全長約2.7mの保存状態も完璧なものと判断した。前例としては19世紀に発見された2つの標本しかないが、ただ、これまでは長さ1.8m程度で、それに比べるとかなり長く(今回のが完品だったせいかも、と)、そしてなぜこんな形でその場所に奉納されているのか、その理由はまだ不明とされている。層位学的にもこの広場が放棄される直前の仕業で、鎖帷子、武器、馬具、兵舎などの軍事的な出土品も次々発見されていて、あるいは軍の駐屯地となっていた可能性もあるらしい。

、ケルトのホルン;
、ローマの軍楽器;、トラヤヌス円柱上のtuba

 私の勝手な推測だが、出土地が北辺であり、純粋なローマ式武具としてのトランペット(より正確にはtuba)というよりは、ひょっとすると、ケルトないし土着ガリア的な(その影響を受けた)儀式用の物だったのでは、と密かに想像している。完品ゆえという説明は、私の知っているローマの直管式ラッパの図像からは、人間の身長をはるかに超えていて、納得できないからである。

【参考図版】Trajanusの大浮彫(Cf., Anne-Marie Leander Touati, The Great Trajanic Friese, Stockholm, 1987, Pl.55:Drawings by Mirs Marika Leander)

人物44のラッパは浮彫切り取りで別々になった:いわゆるspoliaで、現コンスタンティヌスのアーチ門の東側屋階に張られているレリーフ:中央から右へtubaが長く延びている。背後にcornuが続く

こんなモザイク画もあったことを、思い出した。

アルジェリア出土の舗床モザイク(Jamahiriya Museum所蔵):一日の見世物の出番を順に描いて、いよいよ真打ちの剣闘士競技開催を告げる楽団:tubaの右は水オルガン
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ワクチン周回遅れのなぜ:飛耳長目(84)

 毎日新聞のウェブ「政治プレミア」2021/6/1、に以下の記事が載った。

 鴨下一郎(元環境相)「生き延びるためにワクチン接種は必須:遅れた判断と薄かった危機感」(https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20210531/pol/00m/010/002000c?cx_fm=mailhiru&cx_ml=article&cx_mdate=20210601)

 こういった情報を我々はもっと早く求めていたような気がする。ま、結果論には違いないが。

 ハナからワクチンの効果を疑問視していた国民性、収益性や万一の補償問題で二の足を踏んだ製薬会社や政府が初動に出遅れた挙げ句の、緊急何たら宣言の繰り返しどたばた劇。それで国民は大きな経済的打撃を受け、困窮と疲弊の淵に追い込まれてゆく。

 戦闘での戦力逐次投入は愚策であることは分かっているはずなのに、我が愛すべき政府には未だ危機管理の常識すらご理解ないような。つくづく乱世には向かない国民性だなと慨嘆するしかない。「トリアージ」という冷酷な判断も時には必要なわけで。 

 菅首相、前任者同様に「やぎさん答弁」ばかりしてる場合じゃないんですよ。

 【関連】同じく毎日新聞「特集新型コロナウイルス」2021/6/1に「テディベアに全財産しのばせ東欧から出国:ワクチン開発立役者」という有料記事が(https://mainichi.jp/articles/20210311/k00/00m/030/187000c)。

カタリン・カリコ博士(66歳)

 これ読んで、記事の主役のカタリン・カリコさんはファイザー製の、そしてもう一つのモデルナ製にヒントとなったのが山中教授の研究だったことを知った(関連で、https://mainichi.jp/articles/20210312/k00/00m/030/304000c:有料記事)。いずれにせよ苦節30年40年の研究の積み重ねの挙げ句の、新型コロナという場を得ての開花だった。基礎研究と時の運が次期ノーベル医学賞候補へと一挙に加速させているのは、基礎研究の重要性を考える上でたいへん示唆的である。うちの妻も「そうよ、長い蓄積あっても時を得ないとね」と。

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世界キリスト教情報第1584信:2021/5/31

= 目 次 =
▼ホロコースト生存者の腕の囚人番号入れ墨に教皇がキス
▼教皇、バチカン広報省を訪問、メディア関係者と会見
▼ホーチミン市の福音団体と病院関連で新型コロナ疑陽性者12人
▼ジョンソン英首相が結婚、ウエストミンスター大聖堂で少人数で
▼サグラダ・ファミリアがコロナ禍で収入減り26年の完成見込めず
▼聖書を信じた考古学者エイラート・マザール死去

 今日は最後のを紹介しよう。彼女について私は詳しくないが、聖書考古学を地でやっていた、ということなのだろう。

◎聖書を信じた考古学者エイラート・マザール死去
【CJC】米福音派メディア「クリスチャニティ・トゥデー」などの報道によると、イスラエルの著名な考古学者エイラート・マザールが5月25日死去した。マザールは1956年9月10日にイスラエルで生まれた。有名な考古学者である祖父ベンジャミンの指導を受け、11歳から発掘を始めた。祖父は、「イスラエル建国」の父の1人として、彼の発掘によってイスラエルがユダヤ人の祖国であるという考えが広まったとされている。
 「エルサレム考古学の女王」と呼ばれたマザールは、聖書を歴史的なテキストとして受け止め、聖書に注目しすぎるのは非科学的だと考える学者たちとの論争でも知られている。
 マザールは50年間にわたって聖地を発掘し、ダビデ王のものとされる宮殿跡、ソロモン王のものとされる門、ネヘミヤが建設したとされる壁、預言者エレミヤを捕らえた者の名前を記した粘土印二つ、ヒゼキヤ王の名前を記した印、預言者イザヤのものとされる印などを発見した。
 マザールは「聖書には本物の歴史的現実が書かれている」と言って、聖書を繰り返し読んでいた。時には文字通りの指示を受けることもあった。1997年には、サムエル記下5章17節に、ダビデが宮殿から要害に下っていく様子が書かれていることを紹介した。その記述が正しいと仮定して、エルサレムの地形を調べ、ダビデの宮殿があるべき場所を特定した。2005年にはその場所で発掘を開始し、自分の考えが正しかったこと、そしてサムエル記が正しかったことを証明している。□

注=聖書名の表記は、日本聖書協会新共同訳によっている。
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