学術会議問題考:飛耳長目(65)

 昨日また拡販なのだろうか、S経新聞がポストに。それを広げていつもどおり後から読みはじめる。なるほど新聞は下世話な情報満載だなと思っていると、「正論」で「廃止しかない「日本学術会議」」なる見出しが。書き手は島田洋一氏、福井県立大学の先生らしいが、寡聞にして初見の人だが、かなり激烈に自説をご披露されている。そこまで乗れない私は若干間を取って、テレビ報道ではまったく出てこないが、やっぱり学術会議への批判も流れているのだな、とこれについては納得した次第。

 世の中、レッテル貼って安心したがるのは私を含め愚民の常であるが、御用学者にならずに所信を貫くことは至難の技と改めて感じた次第。問題点を鋭く指摘するのが研究者で、妥協であれ問題解決に動くのが政治家の役割のはずなのだが、いつしかそれが混同され、専門バカの研究者が政治家風を、ド素人の政治家が研究者風を吹かしだし、その上それぞれが左右に分かれての舌戦に終始し出すと、まあ生産的な結果には結びつかないのは自明で、この両者のバランスはいつでも微妙である。

 そんな中、ウェブで伊東乾氏が学術会議批判を連発していて、私にはおおむね説得的な気がするのはなぜだろう:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62372;https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62462;https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62498;https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62566?utm_source=editor&utm_medium=mail&utm_campaign=link&utm_content=top

 なかでも10/16の「ノーベル賞、男女比に見る「天国と地獄」付録:お気楽極楽、日本学術会議の「男女比修正」」は、私の盲点を突いていて教えられた。

 その最後あたりで、メディア批判の「日本病」に筆が及び、大略以下のようなことを述べている。メディアでは新人記者に「お前が調べたことを書くな、誰かに必要なことを言わせろ。それを書け!」と教える。はなから取材する気などなく「私の口からこれを言わせたい、こういうセリフを引き出せ」というミッションを課して教育し、「その大勢の思考停止が習い性となって、ありがちなシナリオを誰かに言わせる発想が芯まで達する頃、デスクになる」。そして「あるべき正解、あらかじめ結論ありきに表面だけ取り繕って、それでいい気になってトクトクとしている」日本の病、というわけ。もちろん「自分で記事を書くジャーナリストがゼロ、などとは決して言いません。立派な方も、幾人も存じ上げます。でも、大勢は残念な方向にあるのも事実です」とちゃんと逃げ道もご披露されつつ。これは,自戒を含めて、秀逸なご指摘でした。

 これを私の専門に換言すると、学界主流に乗って生き続けるためには、欧米著名研究者の仰っていることを咀嚼して、横を縦にして祖述することに徹するべきで、間違っても自分のド頭に浮かんだ妄想など書くべきではない、ということになる。あるときある著書についてその著者の某研究者に連続で質問したことがあったときに、「それは誰それが、これは誰それが」と欧米研究の典拠を挙げての返答を連発され、それはまあ引用史学では正しいお答えなのだろうが、「では貴方ご自身はどうお考えかなのですか」と反問したくなった体験がある(無作法極まりない私もさすがにそれを聞くのははばかった)。そのうち彼は教授になって学内行政に多忙になり、論文書くのをやめてしまったらしい、という落ちもついたのだが、そうなるとしつこい私は「貴方にとって研究とは・・・」と言いつのりたくなったものであ〜る。我ながら困った性格だ。

【追記】上を書いたと思ったら、やっと出だした。「あそこは左翼の巣窟だけど… 反学術会議派・小林節氏が首相を糾弾する理由」:https://mainichi.jp/articles/20201022/k00/00m/040/272000c?cx_fm=mailyu&cx_ml=article&cx_mdate=20201023

 学術会議に限ったことではないが、組織の空洞化・立ち枯れ・腐敗は自助努力が働かなくなることが大きいと思う。存続を揺るがす外圧が必要なのだが、それへの反応が自己防衛にだけ向かうのでは未来がない。

【追記2】帰省の折、ときどきグリーン車に乗る。ポイントが1000点貯まると無料で乗れる制度があるからだ。グリーン車の特権は、一列4人掛けなのでゆったりしていること(新コロナ騒ぎだと特にありがたい)、乗車時と新大阪通過で大きめのおしぼりをもらえること、ときどき巡回してゴミを収集してくれること、それに「自由にお持ち帰り下さい」と明記された雑誌2つがあることくらいだ。そのグリーン車すら11月28日(土)の午後、予約段階でかなりの詰まりようだったので(とはいえ半分くらい)、ちょっとビックリ。実際には広島乗車時はガラ空きで、どっと乗車してきたのは新大阪からだったが。

 今回その雑誌のひとつ『Wedge』12月号が’なかなか充実していた。北朝鮮に関する長文記事もあったが、ここで紹介しておきたいのは、勝股秀通(日本大学)「軍事研究が救った多くの命:学術会議は思考停止に終止符を」である。内容は表題で語り尽くされている通り。かしがましく「軍事研究反対」と叫べば叫ぶほど、実際には自分の首を絞めることになる現実に気付こうとしない研究者の偏狭な視野狭窄を指摘しているだけのこと。軍事転用の可能性あるから、じゃあ飛行機は、自動車は、あ、新幹線は、いや自転車だって・・・ということになるわけで。早い話が、今現在ニュースで国民の期待をあおっている「はやぶさ2」だって全ての技術が軍事転用可能なのである。逆にいうと、あれで軍事技術が保全されているわけだ。

 昨今の新コロナでも,生物兵器に対応するのが問題視されかねないのであれば、事前のワクチン開発すら軍事用ということになっちゃうのだから。我らは実に危うい灰色の中で生きているのである。たぶん理系のみなさんはそんなこと先刻ご承知で、研究費の出所で後ろ指指されなければ(防衛庁研究費とか)、あんな戯言は解消されるのにとお考えなのであろう。逆にいうと、文系社会科学系の妄言にどう対処するか、ということなのだろうと思う。

【追記3】毎日新聞2020年6月26日「スター・ウォーズが現実に? 衛星破壊、ISS無断接近…戦闘領域化する宇宙」(https://mainichi.jp/articles/20200626/k00/00m/030/104000c)

 

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