今さらですがテレビの虚構性:飛耳長目(75)

 最近届いた『UP』2021/2月号に以下があった。塚谷裕一「テレビ番組における虚構とサイエンスコミュニケーション」p.7-15。一種のやらせがどこまで許されるか、という問題が主題なわけだが、その中でテレビ業界ではかなり杜撰な事前調査しか行わないで、最後の詰めになって専門家のお墨付きをほしがって連絡があり、こちらが疑問や問題点を呈するととたんに連絡が途絶える、というエピソードが述べられていた。

 その実例が註記されていて、さてこの小論が出たので削除されかねないので(なにせアップ先が一応大学のHPだし)見るならいまのうちにと行ってきた(https://kindaipicks.com/article/001736)。結局資料提供者は「自称〇〇家」にすぎなかったわけだが(端的に言えば偽者)、それが分かっても番組は放映され、こうして輝かしい卒業生として紹介されている現実がある。所詮バラエティ・レベルなので一過性的に視聴率さえ稼げればそれでいいんだ、というわけなのであろうが、大学のHPに掲載されるとなると、それでいいのかというわけ。登場人物にとってはテレビはもちろん商売のPRなのだし。

 塚谷先生ほどではないが、私にもこういった連絡があった経験があって、下請けなのは明らかなのに堂々とたとえば「TBSです」と名乗ってくるのだが、質問内容は、私に電話するまでにせめてウィキペディアくらいは調べておいてよ、というレベル。

 しかし、こういうレベルで番組が制作・放映されているとなると、問題だと思う。私にしたところで自分の専門領域なら判断がつくものの、別分野であれば易々と誤情報をそのまま受け取ってしまうはずだから。その意味でこのブログだってその筋の専門家からしたら誤解と嘘だらけかもしれない。いや、絶対そうに違いない。

 たとえばNHKの大河ドラマにしても、史実を曲げてでもドラマチックに構成しないと面白くなくて視聴率は稼げない。戦国時代に日本には本来の意味での騎馬軍団は存在しなかったが、戦闘シーンで騎馬隊がどどっと走らないと迫力ないし、馬だってテレビ映りのいいアラブ馬(体高140㌢)やサラブレッド(体高160-70㌢)ではなく、せいぜい体高120ー130㌢台(ポニー・レベル)の短足胴長の在来馬では、御大将が騎乗したところで当時はともかく現代では絵になりゃしないのだ。騎乗者の体格は確実に大きくなっているのだし。赤穂浪士の敵討ちにしても、人々の共感を呼び起こすツボを心得た講談調で、物語的に巷間に流布したものがまかり通るわけである。観客の涙を絞るのは事実ではなくて、涙のツボを押さえた物語なのである。

流鏑馬で走る在来馬の木曽馬

 だからつい思ってしまう。事実に基づくべき研究者はいったい何が面白くてやっているのだろうと。

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