サラブレッドならぬ農耕馬政治家・河井克行とその妻

 『おもちゃ:河井案里との対話』(文藝春秋、2022年)はノンフィクション作家でジャーナリストの常井健一の作である。昨日話題にした「アゴラ」の書評を覗くとそれが目にとまったので即古書で注文したら、翌日速攻で届いた。400ページ近くと予想外に大部だったが、私の興味は夫の克行がどう書かれているのか、にあったので第2章前半をまず読む。

 はしなくも、p.87で常井は広島学院のことをこう書いている。「戦後、カトリックのイエズス会信者たちが創立した学校である」。こんなこと学院のPHを読めばちゃんと書いてあるはずなのだが、イエズス会はカトリックの男子修道会で、日本史の教科書にも出ているフランシスコ・ザビエルはこの修道会創設者の一人で、カトリックのことを多少知っていれば「イエズス会信者たち」などとは書きはしない。まあ信者には違いないが、修道士が構成する修道会なのである。プロテスタント的な印象感覚でああ書いたのだろうか。これで彼の書いていることの信用度が私の場合10%は減じてしまう。しかし、我が出身研究室の大先輩坂田正二先生のお名前が出てきて(p.106)、生前の先生を多少知っている私からすると、これはさすがさもありなんと。

アマゾン・コムで見たら地元広島の中国新聞取材のものもあったので、これも古書でさっそく発注した:ちなみに私の実家近所で活動している若い市会議員さんもお金もらってまして、反省文がポストに投函されてました。

 克行の母がどうやらすでにカトリック信者で、彼自身も幼児洗礼を受けていたようだ(小教区的に祇園教会所属か:豪放磊落なドイツ人ワンマン主任司祭ロレンツ・ラウレス神父(93年に77歳で死去:ちなみに上智大学キリシタン文庫創設者で、史学科初代学科長ヨハンネス・ラウレス師[1891-1959年]はご親戚とか)のことが思い出される)。きょうびの社会的関心からいえば、新宗教の2世がらみの問題がここにも顔を覗かせているし、叙述によるとどうやら両親共に地域社会では持てあまし気味のクレーマー的存在だったようで、これって信者(に限らないが)にときたま見ることできる人間類型なのである。上智在職中にも、信者の母親の強い希望で修道院入りとかを強要されて、だけど不適合で苦難の人生を歩んでいる学生・院生をときどき目撃していたので(私の体験だと、だいたい五島出身とかの長崎信者)、貧困が原因の宗教がらみの親子のしがらみって問題多いなと考えざるをえないのである。

 私が40年前に岡山県の山の中の津山市に10年間居住していたとき、なにぶん田舎だったので、新興住宅地だったのに古くからの講組組織が持ち込まれて生きていて、年2回の草刈り・ドブ掃除には世帯から一人出さねばならない、葬式の場合は男女各一人を帳場と台所に出さねばならない、といった調子だった。戦前のしきたりが途絶えてしまった被爆都市広島から流れてきた私など、そんなことそれまでやったことなく「へ 〜そうなんだ」とビックリしながらも参加していたのだが、そこにモルモン教の独身女性が引っ越してきて、あるときの葬式で「私は宗旨が禁じているので葬式には出ません」といったものだから、町内会で大問題になったことや(「だったらあそこの葬式の時は協力しないぞ」の発言あり、私が「いや、信者仲間が独自にやるでしょうから町内会は出る幕ありません」といって宥めて、一件落着)、丘を開発しての新興住宅地なので町内に神社とか秋祭りもなかったのだが、子供たちが他の町内のように神輿を担ぎたいと言い出したので、気のいい世話人有志が即席でそれらしきものを作って、子どもたちはそれをかついで町内を練り歩いたのだが、これは誰が言い出したのか不明だが、ああいう宗教行事を行政の末端のニュートラルであるべき町内会がやるべきでない、と言った人がいたらしく、これには威勢のいい世話人が腹を立てて怒っていたこともあった。あれから40年、もう住民の世代は入れ替わったから変わってしまっただろうか。

 逆に、上京して正月に登学してみると、千代田区紀尾井町の麹町カトリック教会の門前に門松が飾ってあるのを見て、これはこれで私は「門松って八百万の神々が降下してくる依り代じゃないか、こともあろうにカトリック教会がこんなことしていいのだろうか」とビックリしてしまったのだが(他にも、地元のなんたら祭で、結界を張る綱と紙製の御幣みたいなのが町内を囲むのもある)、とかく外来宗教と伝統ある地域社会の関わりは微妙であるが、既成伝統教団は鷹揚に受け入れるが、新興教団は激しく抵抗するという図式が未だ顕在なのだろうか。

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