映像の世紀プレミアム:第14集「運命の恋人たち」

 BSプレミアムで、今晩さっきまで一時間半たっぷりとやっていた。最初はポニーとクラウドとか、エドワード八世とか、ナチスのゲッベルス夫人マクダの話で、野次馬気分でのぞき見している感じだったが、段々と深刻な事例が出だして、エニグマ解読者アラン・チューリングあたりから、最後はエルトン・ジョンの同性婚に至る性的少数者(バイセクシュアル・同性愛:本当はトランスジェンダーやXジェンダーにまで展開してほしかったが)に話題が移行。ともかく一見の価値ある映像だった。もちろん今からでもオンデマンドで見ることができる。

 私は、アウグスティヌスにバイセクシュアルを見る小論を今年公表したが、性的少数者は古来から連綿と存在してきたわけである。この事実にフタをすることなく、上から重石を置くことなく、正面からきちんと注視する姿勢が大切だと思う。性同一性障害とは、生命誕生時に母体から浴びた性ホルモンの多寡による偶然のなせる技、という見解を私はとっているからである。今世界中でカトリックを揺るがしている聖職者による小児性的虐待問題も、このような趨勢の中で病理現象からはたして解放されてゆくのであろうか。否、そもそも教義的に根拠のない聖職者独身制度の発祥は、妻帯聖職者制に問題が多発していたからこそ、東方の隠修道士制から学んで導入されたことを忘れてはならない(遺産の教会財産化というとらえ方もあるようだが、納得できない)。しかもまた現代、結婚制度自体も揺らいでいて実際には離婚、貧困母子家庭の続出である。そもそもせいぜい人生50年の過去の時代と、80歳の現代では同列に考えろということ自体無理かもしれない。となると、病理現象はいずれにしても解消できない予感がする。ともかく人間誕生に関わる造化の妙であり、それだけに人間本能・本性に深く根ざした問題なのだから。

 以下は最近出たにもかかわらずわが図書館(室)にあった。今度借り出してみようかな。問題の聖職者はカプチン会らしい。ダニエル・ピッテ(古川学訳)『神父さま、あなたをゆるします』フリープレス、2019/2。

 以下の1998年芥川賞受賞作はなぜか短大図書館にある。花村萬月『ゲルマニウムの夜』文藝春秋、1998。私的にも数年前に購入していたのだが、書棚の肥やしとなっていた。そろそろ読もうかなあ(あまり食欲はわかない)。奇しくも上記ビッテ氏翻訳出版と同時期、『文藝春秋』97-3、2019/3に以下の記事が。広野真嗣「”バチカンの悪夢”」が日本でもあった! カトリック神父『小児性的虐待』を実名告発する」。これらはいずれもイタリア系のサレジオ会関係のようであるが、そういえば、松本清張の小説『黒い福音』のモデルとされたスチュワーデス殺人事件の容疑者も同会所属だった。

 今日の午後、たまたま思い立って大島渚監督の「御法度」(1999年)をアマゾンのPrimeビデオ400円で初めて見たが、続けて「戦場のメリー・クリスマス」(1983年)を再見するエネルギーはもうなかった。どうやら私は「健全」なる異性愛者らしい、否、だったらしい。

【付記】 日本では当事者や研究者があからさまに触れようとしないから、なかなか一般的知識にはならないが、たとえばアドルフ・ヒットラーは宗教的にはカトリックだった。だからといって、カトリックは言われているほどナチス的であったわけではない。生まれた時の機械的な幼児洗礼はその程度の存在だったというだけのことだ(*)。しかし、ヒットラーが立会人となってゲッべレスがマクダと結婚したとき、マクダがプロテスタントだったので、新郎は破門され、立会人は戒告処分を受けた、というエピソードはまだ宗教に厳格だった時代を反映していて面白い。

Der Führer wieder auf dem Obersalzberg Bei einem Besuch auf dem Kehlstein mit seinen Gästen, Reichsminister Dr. Goebbels und Frau mit ihren Kindern Helga, Hilde und Helmut.

 (*) この件は、以下の、まったく逆の道を歩んだイエズス会員の軌跡からだけでも明白のはず。中井晶夫「ハンス・ブライテンシュタイン先生の古希をお祝いして」『上智史學』35, 1990, pp.1-3.  なぜかpdf化されておらず、手持ちのPSも作動しないので、とりあえずスキャンして転載しておく。師は反ナチの密書の運び屋をやっていたらしく、この件は退職時のご講演でもご自身の肉声でお聞きした。

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