マリー・アントワネットと角栄:飛耳長目(43)

 これまた偶然、NHKの4Kスペシャルで「マリー・アントワネット最後の日々」(2019年フランス製作)の再放送を見ることができた。革命政府の裁判のでたらめさは、まあ予測できたが、あからさまな19世紀的女性蔑視の表明だったという件には、考えてみれば当たり前であるが、私にとって欠落視点で勉強になった。最後に、でっち上げの証拠で死刑に導いた検察官エベールや、全員一致で死刑に同意した裁判の陪審員たちも大半がその後ギロチンで処刑されたという後日談もあって、ちょっとだけ救われた思いである(ルイ17世の哀れな死についても初めて知った)。これを見ていて、以前、2019年3月に「ピュイ・デュ・フー」について書いたことを思い出した。

1755-1793年(37歳)

 最近、テレビでNHK「未解決事件」シリーズの再放送で、ロッキードがらみのものを見たことを連想。そこでロッキード事件の核心について、私など驚天動地のP3Cが本丸だったのだが、という話も出てきていた。それもあって、早坂茂三『怨念の系譜:河井継之介、山本五十六、そして田中角栄』集英社文庫、2003年(初版、東洋経済新報社、2001年)を読む気になったのだろう。まあすでに歴史上の前2名についてはそれなりに平静に読めたものの、私自身の同時代史で報道に翻弄されていた田中角栄(1918-1993年:75歳)については、なにしろ早坂が当事者のマスコミ対策の秘書だったこともあり(1962-85年)、未だ記述内容に疑心暗鬼の呈である(当時、立花隆『田中角栄研究』講談社、1976年[初版『文藝春秋』1974年]を貪るように読んだものだ:早坂は立花の名を挙げずに「路地裏の狙撃兵」[p.233]とかなり貶めている])。だが、政界やマスコミの毀誉褒貶、それによる世論操作・大衆の変節は、フランス革命と寸分変わりないわけで(ロッキード裁判も国内法を無視した超法規的証拠による一審実刑・控訴審棄却判決のあと、死亡による最高裁での控訴棄却で未決着のままである:こんな記述もある。「木村弁護士の著書の中に、・・・記者たちとのやりとりが出ている。・・・記者の諸君が・・・(中略)・・・と言うので、『何でそれを書かないんだ』と聞くと、『いやデスクが通らないんです』などと言う。・・・現場の記者が多少の真実を伝えようと努力しても、マスコミ社内の空気が許さなかった」(p.254-5):今だってそうだろう、我々も気をつけないといけない)、まだまだ評価が定まるには時間がかかりそうだ。弁護人・木村喜助『田中角栄の真実:弁護人から見たロッキード事件』弘文堂、2000年、や越山会の女王・佐藤昭子『私の田中角栄日記』新潮社、1994年、を読んでみようと思う。

中央が田中、右が早坂(1930-2004年:73歳)、目つきが、ね

 但し、田中が郵政相時代にバセドー氏病を発病し投薬を受けて「やや躁」にコントロールされていたことを暴露しているのは、秘書ならでは知りえた極秘情報だ(p.280-1:後から入手した児玉隆也『淋しき越山会の女王、他六編』岩波書店、2001年、p.48にもそれが書かれていた[ということは、1974年にすでに言及されていたわけ])。無類の汗かきだったのもそのせいか。躁状態は並の凡人を驚かす言動を平気でやってしまう。それを人々は「天才」と誤解する場合もある。否、自在にそんな自分を操れるのが天才なのだろう。コントロールされない場合、もちろん普通は「異常者」扱いされるのがオチなのだが(私は角栄の娘の言動にそれを見てしまう)。私的にはこの一点で田中の人心収攬術の秘密を掴みえた気になっている。

【追記】5/21:なんか変だな〜と思っていたら・・・。官邸が検察庁K某がらみの「法改正」をやたら素直に引っ込めたので、世間ではツィッターの勝利なんて言っているようだが、私のような旧世代からするとあんなものにそんな力はない、妙な雲行きだなおかしいなと思っていたら、裏に文春爆弾があったのか:https://mainichi.jp/articles/20200521/k00/00m/040/003000c?cx_fm=mailasa&cx_ml=article&cx_mdate=20200521。官房長官がいかに口頭否定したところで、見え見えですね。だれも信じません。事実はともかく、これでK氏は退け時ではあります。

 ところで、今回の件、実は広島三区の河井克行前法務大臣夫婦の問題もからんでいたことを、初めて知った。新恭氏による「永田町異聞メルマガ版」:「検察庁法改正案で挫折した安倍首相に迫る河井前法相立件のXデー」(https://www.mag2.com/p/news/mag_author/0001093681)。モリカケ問題再燃もありかも。ところで河井君、広島学院同窓会名簿によると、20期生で宗研所属の由。宗研(カトリックの宗教研究会)でなにを学んでいたのやら。今さら猛省促しても無駄だろうな。

 なんと、官邸が抱き合わせで検事総長辞任を求め始めているらしい。ただ検察側としても同じ穴のむじなで、人事に裏は付きものだが、おおいにもめてほしいものだ。:https://mainichi.jp/articles/20200521/k00/00m/010/093000c?cx_fm=mailhiru&cx_ml=article&cx_mdate=20200521

【追記2】広島ネタで思い出したので、2010年に村木厚子厚生労働省元局長改竄問題で逮捕された前田恒彦をググってみたら、なんと本人のフェイスブックがヒット。自分の事件のノートも書いていて、その姿勢は評価したい(但し有料:https://news.yahoo.co.jp/byline/maedatsunehiko/20151228-00052360/)。今般の問題についても、やっぱり内部事情には詳しく説得力ある(https://ja-jp.facebook.com/MaedaTsunehiko/)。彼は法曹界への復帰はしないと公言しているらしい。ま、こういう生き様もあるわけだ。応援したくなった。そもそも被告にとっての事実と法廷での事実認定には深い乖離があって、納得できないことが多いのが常だ、し。

 彼の問題は、むしろ私的には彼の大学時代の恩師金澤文雄先生があの当時ご壮健だったことが分かって嬉しかったことを思い出す(1928-:さて現在ご健在なのだろうか)。先生は、東北大学のご出身で、当時の広島大学政経学部で刑法学を講じておられたが、学内のカトリック研究会の顧問であらせられ、集会届けなどの印鑑いただきに毎月研究室におじゃまし、お掃除に来られていた奥様にもお会いする機会もあった。新潟人らしい律儀なたたずまいの方だった。お、新潟県人・・・。

【追記3】新恭氏「永田町異聞メルマガ版」:「河井前法相の買収疑惑はいよいよ自民党本部に波及か」(https://www.mag2.com/p/news/453740?utm_medium=email&utm_source=mag_W000000001_fri&utm_campaign=mag_9999_0605&trflg=1)。今回の手入れが、総理に至る前段階として、自民党本部の金庫番の元宿某氏にまで及ぶかどうか、に注目している。

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