アスリートへの性的虐待とカトリック教会:遅報(60)

 いつものように偶然見てしまったのだが、NHK BS1で、アメリカの水泳や体操競技におけるコーチが幼い選手たちに性的虐待をおこなってきたことを報告している中で、訴える側の年齢制限を26歳からもっと延長しようとする法律改正のプロセスで、なんと水泳連盟と一緒に反対してきたグループにカトリック教会が出てきて、驚いた(彼らのロビー活動で、結果的に法案つぶしに成功したらしい)。これが本当だとすると、補償問題への法的対処であったにせよ、隠蔽工作に加担していたといわれても仕方ないだろう。2020年フランス制作。

 終わってからググって見たら、少なくとも2016年以降、スポーツ界での暗澹たるニュースが掲載されていた。(「米国体操界で性的暴行がまん延か、米紙報道」https://www.afpbb.com/articles/-/3111547?cx_part=related_yahoo)。中には盗撮まがいの画像・動画のSNS投稿問題も。もちろん我が祖国についても同様である・・・。ま、スポーツ選手って裸に近い形でアピールしてるから、少女であれば劣情を刺激しちゃうのだろうが。

 それと、今古代オリンピック関係の本を読んでて、それで改めて分かったことがある。古代ギリシアにおいてすら(古代ローマは言うまでもなく)、オリンピックは当時も金と八百長と賄賂まみれであったということ。この点でただ今現在のIOCだって全然負けてはいない現実があるのは周知の事実。有名な「参加することに意味がある」との言説すら、アメリカの聖公会の主教が当時欧州で差別された合衆国の選手たちを励まして言ったことで、それをクーベルタンが換骨奪胎して再言したのであって、崇高な理念とはもともと無縁だった由(トニー・ペロテット(矢羽野薫訳)『驚異の古代オリンピック』河出書房新社、2004年:改訳版『古代オリンピック:全裸の祭典』河江文庫、2020)。翻訳者が後書きで喝破しているが、この書の原題は「The Naked Olympics:The True Story of the Ancient Games, 2004, p.227-228) 」で「オリンピックを丸裸にする」なので、容赦がない:付言しておく、この著者には、2003年に邦訳が出た『ローマ人が歩いた地中海:「人類史上初のツアー旅行」体験記』光文社;原著2001年、がある。

 あげくカトリック教会がらみで、こんな映画と著書の存在も知ってしまった。「性的虐待を隠蔽し、加害者を野放しにする秘密を守る文化 『グレース・オブ・ゴッド:告発の時』」(https://www.newsweekjapan.jp/ooba/2020/07/post-84.php)。2020/7/17日本公開だったらしい。全然知らなかった。フレデリック・マルテル(吉田春美訳)『ソドム:バチカン教皇庁最大の秘密』河出書房新社、2020年。

 この本は値段が高いなあ。当然ながらというべきか、わが書棚代わりの大学図書館にはない(但し、英訳本は入っていた。要するに神父さんたちは読んでいるということで、このあたりの距離感は実に微妙)。遺憾ながら、上記ウェブで以下のような言説に出会った。「本書の主張を要約すれば、バチカンは世界で最も同性愛者が集まっている場所であり、同性愛という視点で読み解かなければ、バチカンもカトリック教会も理解できないということになる。過激な主張ではあるが、4年をかけ、30か国以上で現地調査を行い、1500人もの教会関係者と会見し、著者自身もゲイであるからこそ踏み込める領域がある利点も生かして書かれた内容には、少なからぬ説得力がある」。

 こういう病理現象の存在を私は否定しはしないが、それがすべてではない、といつものように但し書きしておこう。

【追記】『ソドム』が速攻で届いたが、なんと750ページ! 「訳者あとがき」で興味深い知識を得た。「ホモフィリ」homophileである。一般的に「同性愛」はホモセクシャリティhomosexualityと捉えられているが、それは多くの場合「セックス」行為を伴うものと理解されているが、「ホモフィリ」は性行為を前提としない、もっと広い結びつきを示す言葉である、と。本書の鍵はどうやらこの語にあるようだ。このレベルで留まる限りは、男同士の友情であって、問題ないわけで。

 翻訳者の吉田春美氏は私の元の職場の卒業生。磯見ゼミの出身かと。奥付に書かれていないので怒られるかもしれないが、ウィキペディア情報では1956年生まれのようだ。私より9歳年下だから、1988年に着任した私とは面識がないはずだが、これまでも若干きわものめいた何冊の翻訳を読ませていただき、お世話になっている。

【続報】「コーチから性被害の元フィギュア選手、予審開始に「ホッとした」 仏」(https://www.afpbb.com/articles/-/3325444?cx_part=outbrain);「韓国元トライアスロン代表監督に懲役7年、女子選手が昨年自殺」(https://www.afpbb.com/articles/-/3329190?cx_part=logly)

Filed under: ブログ

No comment yet, add your voice below!


Add a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Comment *
Name *
Email *
Website

CAPTCHA