虐殺実行者はゾンダー・コマンド:遅報(62)

 さきほど、NHK BS1で「アウシュビッツ:死者たちの告白」の再放送を偶然見た。強制収容所でこれまで8箇所、ユダヤ人でありながら同胞殺害に加担させられたSonderkommandoたち(特殊任務部隊兵:分断のため14ヶ国のユダヤ人、ロシア人捕虜で構成)のメモが、焼却炉の周りから発見されていて、インクが滲んだり薄れてこれまで読み取り不可能だったものが数年前から解読可能となったらしい。よくも遺したものだ。これがユダヤ人らしいところだろうか。いや、裏切り者とされた彼らが死を覚悟しての一斉蜂起を目前にしての後世への遺言行動だったのだろう。この録画、NHKオンデマンドで1年間みることができる。みんなに見てほしいと思う。

収容所内のレジスタンスが隠し撮りした死体焼却作業中の彼ら

 後半で、第2次大戦中に、ナチス占領下でのユダヤ人迫害は彼らの財産奪取でドイツ系市民を潤したこと(これなんか、米国が日系市民にした処遇とまったく 同じ)、他方、イギリスなどは多数のユダヤ人亡命者の流入を警戒した政府によって、ユダヤ人絶滅作戦の情報を故意に握り潰したこと、が指摘されていて興味深かった。自由陣営を標榜してきた側の素の実態が、わが身かわいさで見捨てていたのだ、という指摘は実に鋭い。 それ以外でもよろず悪いことはすべてナチになすりつけているが(例えば、人種差別や非健常者の断種・ロボトミー手術)、同時代にどの国でも(イギリスやアメリカでも)同じようなことを実はしていたことには口をつぐんでいるわけだ。勝者の身勝手な論理にごまかされてはならない。

 いつも思うことだが、いわゆる専門研究者たちがなぜこれを研究テーマにしてこずに、おめおめみすみすマスコミに先を越されているのか、たとえ触れたとしても勝者の論理に取り込まれて論じて一向に恥じない、その不感症・無関心の根源を問いたくもなろうというもの(参照、ウィキペディア「ゾンダーコマンド_(強制収容所)」;https://news.yahoo.co.jp/articles/846114a07593e6fd945c145a2528f97145db29fc;https://www.newsweekjapan.jp/ooba/2016/01/post-11_1.php;https://news.yahoo.co.jp/byline/satohitoshi/20171229-00079884/)。

 それにしてもアイヒマンたちは、「私は一人もユダヤ人を殺していない」「大量虐殺など見たこともない」というご飯論法で自らの潔白を主張しているのは、実に立派な法廷用論理である。それはそうだ、それを実際にやっていたのはゾンダー・コマンドたちだったのだから、その通りである。上官に命令され、部下に命じただけのことだ。だが勝者の論理はそれをあえて無視し、結論先にありきの軍法会議方式で、弱い下級責任者に無理矢理責任をなすりつけてゆく。そうしないと被害者感情が鎮まらないからだ。有り体に言えば復讐である。現に上意下達でただ命じられてのことであっても、被害者の視野内の現場にいた当事者が告発対象のやり玉にあげられ、処刑されてしまうことはよくあることで、それはわが日本軍でもB級・C級戦犯が現地で簡単に処刑され、A級戦犯は丁寧に扱われ25名中18名は死刑を免れたという事例と重なってくる(雲上人の天皇や、なんと731部隊長石井四郎ともなると利用価値ありとして免責されたのである)。この不条理はなんともいたしかたない。負けるとそういう目に会うということで、そこに勝者にも正義などありはしない。

 落書き研究としては、住居部分の外壁レンガに以下の刻みが発見された情報は興味深い(映像で収容所内のそれらも一瞬写っていた)。

 ところで、NHKの独自調査で、これを記した本人の、戦後結婚して生まれた娘たちが見つけ出され登場したのには、びっくり。収容所が解放されたのはこの日付の1年後のことで、彼自身証拠隠滅のため処分されるはずのゾンダー・コマンドだったのだから。よく生き延びて、戦後に子をなし得たものだ。

 やはりウィキペディア情報だが、ガス室で使用されたのはチクロンBという青酸化合物の殺虫剤で、それを開発したのがユダヤ人研究者だったというのは、悪い冗談としかいいようもない。ただそれにしても毒性の拡散までそうとう時間がかかるようで、そのあたりリアルな情報が欲しいところ。ちょうどギリシア生まれイタリア系ユダヤ人、シュロモ・ヴェネツィア(鳥取絹子訳)『私はガス室の「特殊任務」をしていた』河出書房新社、2008、を見つけたが、わが図書室にはなかったので、購入しようと思う。

【補遺】同様に専門家すら目を閉ざしてきたドイツに於ける「収容所慰安婦」の黒歴史をあばけ!:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20210329/pol/00m/010/006000c?cx_fm=mailhiru&cx_ml=premier&cx_mdate=20210412

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