「レディ・サピエンス」を見た

 いつものようにいきあたりばったりで偶然、NHKの「コズミックフロント」を途中から見て、大いに触発されて、すぐにオンデマンドで220円払って全部見たが、そこでの方法論がとても面白かった。

 西ヨーロッパで旧石器時代の洞窟で壁画や人骨、石器などが発見されだした19世紀、研究者にも当時の世相が色濃く反映されてしまい、狩猟は男性、女性は採取と出産と子育て、という認識が深く根付いていて、出土物が狩猟関係だとそのそばの人骨は男性と安直に判断されてきたのだが、最近の精査でそれが覆される例が出てきたという。すなわち、狩猟にも女性が参加していたこと(南北アメリカ大陸では30%は女性だった由)、その裏打ちとして授乳期の終わったあとの子育ては祖母が担っていたので、女性も狩りに出かけることができたし、骨の分析から投槍したら骨に刻まれる傷が女性にも見られることが根拠に挙げられ、当時の食料カロリー比率の9割が採取による植物・魚介類によって維持されていたので、集団の中で女性の役割は高く評価されざるをえなかったはずだ(ここまで言われると男は何してたんだ、と思っちゃいますが、やっぱ採取もしてたのかな)、といった見解が次々と紹介されていく。

 壁画を描いた旧石器時代の芸術家も「二本指の法則」(男は人差し指より薬指が長いが、女は同じ)に従って再調査してみると、女性の手形が確認され(え〜せっかくの仮説の腰を折るようで申し訳ないが、どうやらうちの妻は男が勝っているようでして:というより、この法則、もともと別の内容だったような。https://www.yamacomi.com/7695.html)、

フランス、1922発見のベッシュ・メルル洞窟の手形の4分の3は女性のものと放送で言っていたが、そんなばかな

また、洞窟の足跡をアフリカ狩猟民のプロに鑑定してもらったら(餅は餅屋というわけで、この辺の着眼点おおいに愉快ではあるが)、女性や子供のそれも確認され、こうして従来の見解は修正されざるをえなくなった、などなど。当たり前のことだが、手型にしろ足型にしろ漫然と眺めている限り、突破口は開けないというわけで、このあたりおおいに自省しておきたい。

フランスのアルデーヌ洞窟には8千年前の足跡が600以上ある由

 要するに、狩猟採取時代において、これまで言われてきたほどの男女の性差による役割分担はなかった、というわけである。出土物で勝負するのが考古学なのだが、昔から、一見資料に基づいているようで、ある場合は論証が飛躍しすぎで、仮説の多くは研究者の着想で大きく左右されている印象が私にはあるので、今回も全面降伏するには至らないが、中にはそういう狩猟が得意な女性もいただろうし、絵が上手な女性もいただろう(しかし現代同様、みんながみんなそういう才能を持っているわけではないだろーぜったい)、というごく例外的な部分修正がいいところだと思ってしまうのだが(番組は逆の意味で時代に迎合しすぎ)、これでよろしくないのだろうか。NHKさん(というか販売元、今回はフランスの番組製作会社さんか)、売らんかなと、いつもながらセンセイショナルな構成にしすぎているような。ゲストの日本の考古学者それを是正すべきだけど、ま、できないのだろうな、NHKに忖度して。

【追記】その後、妻を含め指を見せてもらった女性3名は、みな薬指の方が長かった、のはなぜ。仮説崩壊じゃないの。

 なお、同様の女性狩猟者・戦士の存在については、2020/11/10にも触れておりました。

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