NHKスペシャル「新・ドキュメント太平洋戦争・第一回(前編)」をみた

 最近なんだか山本五十六とかの映画やドキュメンタリーがしばしば放映されているなと思っていたが、それが12/8の日米開戦記念日をめざしてのことだとようやく気付いた。忠臣蔵ではなし、これまではそんなことなかったのにと思ったのだが、今年が80周年だったのだ。

 昨晩(2021/12/4)は50分番組で標記が放映されたが(内容は、https://bangumi.org/si/-1?si_type=3&event_id=10944&program_date=20211204&service_id=0x0400&overwrite_area=23)、ド素人なりに番組構成で2点に関し腑に落ちない感想をもった。番組の主力は発掘された庶民の日記と、二・二六事件後に侍従長となった百武三郎の新たな日記(エゴ・ドキュメント)発掘にあったのだが。

 第一に「満州」の扱いであるが、満州事変と支那事変を平面的に捕らえていること(ところで「しな」が漢字変換されず手間どった。Atokでは差別用語として自主規制されているようだ。やり過ぎだ)。私の理解しているところでは、中国人にとって満州は中国・中華固有の領土ではなく、満州族=清王朝の故郷という認識が一般であったので、その領域内への日本軍進出であれば孫文や蒋介石も目をつむったのだが、それが支那への拡大となるとそうはいかない、という地政学的な視点がまったく欠如していたことである。今となっては満州も中国領土という認識が中共にも番組製作者にも刷り込まれているからだろうが、それでは、満州事変の立役者の石原莞爾がなにゆえ支那事変には反対したのかが分からないはずなのだが。

 第二に以前このブログに書いたことあるが、1901年生まれの昭和天皇は当時20-30代の若輩者で、はるかに年上の陸軍高級軍人たちに蔑ろに扱われていて(麻雀やダンスにうつつを抜かす軽薄者という風評があったが、この番組ではトランプはするが麻雀はしないと天皇に言わせていて面白かった)、いつでも弟の秩父宮や高松宮に替えちゃうぞという宮廷陰謀のただ中におかれていた、それによって彼の状勢判断が大いに左右されたはずなのだが、その点が番組ではまったく触れられていなかったことだ。番組作成者の皇室への忖度のせいだろうか(この点は、朝日新聞のほうでも、やはり忖度か高松宮の名前は明記されていないが、陸軍の反乱については明確に伏見宮から言上されていたとされている:https://digital.asahi.com/articles/ASPD44K1TPCVUTIL05G.html?pn=8&unlock=1#continuehere、但し有料)。

 番組では、天皇の対支那観も述べられていて、中国人はメンツがあるのかもだが、まともな交渉で問題解決は不可能で、片手で交渉、片手で武力で脅さないと妥結しない、というもので、そのへんの危険なバランスが結果的に失敗したわけで、これはなかなか興味深かった。

【付記1】2021/12/8毎日新聞「米国への通告前に真珠湾奇襲 国際法違反をあえて選んだか」(https://mainichi.jp/articles/20211207/k00/00m/040/402000c?cx_fm=mailhiru&cx_ml=article&cx_mdate=20211208)を読んでなっとく(但し有料)。

 これまで山本五十六は事前の宣戦布告にこだわっていて、在アメリカ日本大使館の失態で通告が遅れた、というプロパガンダが日本側からなされていたが(その際、アメリカだって色んな戦争で同様の行動とっている、という指摘も付け加えられていた)、それを根底からひっくり返す見解が出てきて、まあそう言われてみるとその通りだなと、30分前の通告だって不意打ちには違いないな、と盲点を突かれた思いである。それとあの文書、実は宣戦布告した内容ではなかった、というのも、言われてみればその通りなのである。単なる交渉中止連絡にすぎず(https://wedge.ismedia.jp/articles/-/14711)、そもそも対英のマレー半島奇襲は最初から宣戦布告なしに、結果的に真珠湾より1時間以上前におこなわれていたし、となるといわゆる宣戦の勅書とは官僚お手のものの日時詐称ということになる(https://ja.wikisource.org/wiki/%E7%B1%B3%E5%9C%8B%E5%8F%8A%E8%8B%B1%E5%9C%8B%E3%83%8B%E5%B0%8D%E3%82%B9%E3%83%AB%E5%AE%A3%E6%88%B0%E3%83%8E%E8%A9%94%E6%9B%B8)。

 先日みたNHKだっけの山本関連の番組では事前通告にこだわっていたという表現が登場していなかったので、あれっと思ったのだが、そういう裏事情があったのか、と納得。

【付記2】上記番組の「後編」は12/11 23:00−0:00。「前編」のよきまとめが出た。田部康喜 「昭和天皇の「声」で迫る日中戦争と太平洋戦争」(https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25098)。

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