戦争は誰が始めたのか、そして、また始めるのか

 今から10年前のNHKスペシャル「日本人はなぜ戦争へと向かったか」をNHK総合で再放送している。仏印進駐がアメリカの全面禁輸という強硬姿勢をもたらした契機となった。日本側はそれを全く予想していなかった。見逃されるだろうとの安易な逃げ場所がむしろ墓穴を掘った。誰がみてもアメリカとの戦争は勝つ見込みはまったくない。これは陸海軍を含めての共通認識だった。しかし、負ける、この一言を自分が言うと弱腰ととられる、だから誰か言ってくれ。リーダーたちの間でなすり合いが始まった。首相近衛必死の日米首脳会談もご破算となる。先に戦争回避を言い出そうとはしないリーダーたち。そして東條が虎穴の虎児として登場する。陸軍を押さえる役割が期待されていたのだ。

 判断先送りの挙げ句、11/27に厳しいハル・ノートが出てきたのだが【これが結果的に、ルーズベルトが米国民に選挙公約していた非戦を反古にして、ヨーロッパ戦線に参戦するための口実に利用されることになる】、それ以前に手を打つべきだったのに、責任とりたくない合議が時を失わせたのだ。ある意味、当時の日本は独裁でなかったからずるずると戦争に引きずり込まれてしまったともいえる。天皇が、首相が、陸相が、海相が公式の会議の場で「負けます」といえば別の道が開けたのかも知れない。その勇気が誰にもなかった。これが今に通じる我が日本組織人の通弊なのである。

 そしてメディアの責任も大きかった。威勢のいい記事を書けば発行部数が伸びる。経営的には万々歳だ。だから戦争協力し、そういう紙面を作って国民を煽る。ナチスが大いに利用したラジオも然り。戦争で窮乏が進む民衆の不満は手っ取り早く分かりやすい責任を英米に着せる方向に向かう。そしてそれをメディアが誘導していく。それがリーダーにも跳ね返り、世論が求めていることに迎合せざるをえなくなる。本当のことを言い出せなくなって追い込まれてゆく。

 誰も戦争したくなかったのに、真の勇気をリーダーが発揮しなかった。無知なる民衆は勝手に、いやそう誘導されて煮詰まって暴論に走る。そして現在、まったく変わらない我が国、我がリーダー、我が国民がいる。以上が10年前の主張だった。これを衆愚政治という。

 現代、すでに若者たちは新聞を読まないしテレビも見ない。ラジオも聞かない。ついでにいうと学校でも昭和史は蔑ろだ。彼らが日々、いや時々刻々もっぱらチェックするのはSNSだ。そこでのフェイク・ニュースで左右される恐ろしさはもはや現実である。それが世論を動かすとなると大問題だ。流言飛語が飛び交う、武器を使わないIT戦争はすでに始まっている(アメリカ大統領選しかり、新コロナ騒動しかり・・・)。だから情報統制を強力におこなう独裁者の登場が期待され始める。そのほうが幻想に過ぎないとしても、意志決定が早く対応でき傷が小さいからだ。愚民には知らしめるべからず、依らしむべし、なのだ。

 これは既視感のあるどこかでみた風景だ。またそれを繰り返す愚を犯すのであろうか。たぶん性懲りもなくそうなるのであろう。それが、学ばない連中への歴史の唯一確かな教訓,しっぺ返しなのだから。

【追記】2021/12/11NHK総合で「昭和天皇が語る開戦への道」では、上記とかなりニュアンスの違う従来説的な味付けで放映中。戦後の田島道治「拝謁記」と新発見の戦時中の「百武三郎日記」で述べられている天皇の言動をどう判断するのか、という問題はもちろん百武に依るべきだろう。史料の読み方で私は10年前のほうが均斉がとれているように思うが、百武の新情報で天皇は及川海相の言により開戦に傾いていたとあるのは、やはり無視しがたい。80年という歳月がこの史料を世に出すことにもなった、と改めて思う。よく天皇は本心では開戦に反対だったとして御前会議で明治天皇御製の和歌「四方の海・・・」を読んだ、とこれまで主張されてきていたが、実際には明治天皇以来宣戦布告において「万やむを得ず開戦に至った」ことを示す常套句にすぎない、という解釈に連動していくわけである。

 この放送の中でおやと思ったのは、最初ルーズベルトは4/16の日米諒解案で満州国の承認と引き換えに中国からの撤兵を提案した、それはこの段階では米大統領はヨーロッパ戦線参戦を前提に、対日政策を荒立てず三国同盟の骨抜きを図っていたのだろうとしている点である。これは結局チャーチルと蒋介石の反対で廃棄されたらしいが、この日本にとってこの上もなく有難い妥協的内容にハルがタガをはめるべく四原則を付記していたのに、それを野村は本国に添付しなかった件は番組では触れられておらず、このあたりの交渉ごとの複雑怪奇さには驚かされる。


 私的にはこれらから学んで、古代ローマ史研究に資することなのであるが、さてできるかな。

 偶然以下を見つけた。「ラジオと「戦争展」」(https://japanradio-museum.note.jp/n/ndd86fb7a8573)

 2021/12/22 NHK総合「新・映像の世紀」3・「時代は独裁者を求めた」:実はアメリカの大企業はナチスへの投資で儲けていていた。自動車王ヘンリー・フォードはナチスに軍用車を大量に売りつけ、空の英雄リンドバーグは、ヒトラーと手を組むことが世界を平和に導くと信じ、アウシュビッツ収容所の大量の囚人管理を可能にしたのは、IBMが開発したパンチカードシステムだった。だからドイツと戦争すると投資資金が回収できなくなる。ドイツとの戦争に反対していたアメリカの資本家たちが、日本との参戦に賛成したのは、そういう事情があった。アメリカとソ連は、占領地で科学者とスパイたちを獲得し戦犯容疑を免除し、ヒトラーの遺産で戦後の軍拡をおこなったのだ。・・・だがこんな視点、世界史の教科書に書かれているのだろうか。いや、教師は教えてきたのだろうか。

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