保阪正康「世代の昭和史」を全部読みたい

 毎日新聞でずっと保阪正康氏執筆で特集「世代の昭和史」が書かれていることを初めて知ったが、これが素人の私にはなかなか読み応えある内容である。ぐぐってみても、今日現在なぜか48回から57回までしか読めないが(ちなみに有料です)、1/7付のその最新号の題は「戦後民主主義の弱点:「良心派」の狡猾な生き方について」だった。ほんと生きていくのはしんどいことだ。

【追記】これが2022/4/30に『世代の昭和史:戦争要員とされた世代』毎日新聞出版、で公刊予定とのこと。さっそく予約発注したのは言うまでもない。これと平行してBS-TBSで放映されていた「関口宏のもう一度!近現代史」が3/22で最終回を迎えた(こっちは、『関口宏・保阪正康の もう一度! 近現代史:明治のニッポン』講談社、2020、同『戦争の時代へ』2021が、すでに出ている)。それも途中から視聴していて勉強になった。来週からは日本古代史が始まる由。

 以下余談だが、それ読んで私は昔古書で手に入れたはずの某書で、戦前と戦後での知識人の変節を対照的に書いたものを読んだ記憶が甦った。まあ一種の暴露本めいた本だったが。書架をざっと見てみたが見当たらず、どうせどっかに埋もれているのだろう、たぶん。ググってみたが、西義之『変節の知識人たち』PHP研究所、1979、が類似本としてヒット。しかし、津田左右吉と文化大革命関係でのそれだったので、私の見たものとは異なっている。・・・さらにタームを変えてぐぐったら、ヒットした。

 『進歩的文化人 学者先生戦前戦後言質集』全貌社、1957年。それの初版は、全貌社全貌編集部編『学者先生戦前戦後言質集』全貌社、1954年、とのこと。古書店にも現在出品がないが(出てもいまや3万円以上の値がつくらしい)、所蔵検索してみたら、なぜか112におよぶ大学図書館が持っていた(我が図書館にはない)。その目次は以下でみることできる(http://go-home-quickly.seesaa.net/article/390953969.html)。なんと「序」を小汀利得(「おばま・としえ」なのだが、「りとく」と読んでしまってた)が書いている、といっても今となっては彼を知る人も少なくなっただろうが、さる時期は毎日曜日に「時事放談」(世評では、冗談だろうが「じじい放談」と聞き取られていた由)で細川隆元と文字通り毒舌・放言していたのを私は「へぇ〜」と驚きながら聞いていたものだ(https://www.nikkei.co.jp/nikkeiinfo/about/ourhistory/archives/post.html)。

 この本にはたとえばこんな私でも名前だけは知っている戦後の著名人たちがやり玉にあがっている。

清水幾太郎(学習院大学教授)―戦争と言論統制を謳歌した平和教祖

吉野源三郎(岩波書店「世界」編集長)―進歩的文化人のプロデューサー

羽仁説子(自由学園教授)―女性の犠牲心を説いた婦人評論家

末川博(立命館大学学長)―学徒出陣を堂々と強調

出隆(元東大教授・日本共産党員)―女流防火群を叱咤する隣組長

国分一太郎(教育評論家・日本共産党員)―支那民衆の辣腕家

蜷川虎三(元京大教授・京都府知事)―北洋漁業を守れの声、今はなし

 広大関係者としては、おいおいちょっと待って、という感じで2名が登場している。

今中次麿―日本資本主義萬歳というマルキスト

長田新(広島大学名誉教授)―「醜の御楯」論から絶対平和論

 その右翼的筆法への反論めいた言説もあって、それは、以下参照(https://note.com/hashida_toyoya/n/n163d5a6855e6)。その書き手によると、上記匿名筆者は、生え抜きの内調所属の志垣民郎氏だったらしい。その彼のメモが最近公表された。岸俊光編『内閣調査室秘録:戦後思想を動かした男』文春新書、2019。その宣伝文句に曰く「志垣氏の主な仕事とは、優秀な学者・研究者に委託費を渡して、レポートを書かせ、それを政策に反映させることだった。・・・本書には、接触した学者・研究者全員の名前と渡した委託費、研究させた内容、さらには会合を開いた日時、場所、食べたもの、会合の後に出かけたバーやクラブの名前……すべてが明記されている」。彼が特に取り込みに尽力したのが藤原弘達だった由。女性がらみで無様な姿をさらしているのが林健太郎だったりする。ならば読まねばなるまい(https://mainichi.jp/articles/20200629/ddm/005/070/027000c;https://yokoblueplanet.blog.fc2.com/blog-entry-9385.html;https://pdmagazine.jp/today-book/book-review-630/)。

志垣民郎(1912-2020/5/4:享年97歳)

 新書としてはぶ厚い上記の本が届いたので速読して、驚いた。pp.313-4に、あの出陣学徒壮行会の「日本ニュース」第177号に志垣青年が登場していたと書かれていたからだ。さっそくYouTubeで確かめようとしたが行進の先頭が東京帝大にしても「前から7番目の列」が判然とせず、確認できなかった(以下がもっとも鮮明な画像だが短すぎる:https://www.youtube.com/watch?v=VghcG8Ih7Q4;一番長いのはこれだがやたら不鮮明すぎる:https://www.youtube.com/watch?v=cGDN8LBawoM;中くらいはこれか:https://www.youtube.com/watch?v=iGGWQloCH2g)。

 目論みはずれて無理矢理召集され、戦意高揚の儀式に強制参加させられての、どことなく虚ろな目線が印象的だ。ナチス張りのメディア宣伝、軍楽は人間の情感に訴えようとするので、行進曲の勇壮さ・悲壮さにごまかされてはならない。彼らの表情から生の声を探り出すべし。彼らの心中は宣伝映画とは別物であったはずだ。「意気盛んていうようなね印象は残ってないね」:昭和館オーラルヒストリー「大学生活と学徒出陣:川島東さんの体験談 」(https://www.youtube.com/watch?v=xFHd_KXSSeE)。

 というのは、同世代の半数が大学進学する現在だと誤認されやすいので付言するが、当時大学生等は同世代の1%程度の超エリートで(専門学校・旧制高校を含むと5%程度)、もともと26歳まで徴兵を猶予される特権階級だったから、召集逃れの合法的抜け道として大学進学が利用されており(不逞の異国宗教団体創立の上智など当時の4流校の学生はおおかたがその類いの受け皿だったはず:1932年の上智大生靖国神社参拝拒否事件、参照)、またいよいよ戦局悪化で1943(1944)年にはその特権が20(19)歳以上の文系学生から奪われると、やはり徴兵逃れで理系に適性かまわず進学する輩も続出していたし、体制批判や共産化ももっぱら知識人予備軍の文系大学生だったから、軍事教練の配属現役将校からすれば「軟弱で、たるんどる!」ということになり、軍部としては恰好の処分抹殺対象だったはずだ。論より証拠、特攻隊員の8割が学徒兵から選抜される「不公平」もまかり通っていた(https://www.youtube.com/watch?v=AgjSopyx92g)。逆に親が有力者だと徴兵されないという不平等も明々白日にまかり通っていた。だが、そもそもすでに一般庶民はみな召集されていたし(実に馬鹿げているが兵器製作の熟練工まで戦地に送り、穴は未熟な動員学徒が埋めていたので必然的に不良品ばかり、となる)、メンタル的に軍隊志願者は海軍兵学校や陸軍士官学校のみならず14歳で少年兵として募集されていたのであって、学徒出陣とは徴兵猶予の特権が剥奪されただけのこと、ということは忘れてはならないと思う(https://www.youtube.com/watch?v=A72d_aiQECo)。

東京では先頭が東京帝大文学部だった。どおりで体躯貧弱、鍛錬不足でピシッとしておらず精悍さに欠けてるわけだ:http://www5a.biglobe.ne.jp/~t-senoo/Sensou/gakuto/sub_gakuto.html
くだんの志垣君はこのあたりかもと

 だが、よく訓練され面構えが凜々しい学生たちもいたことが後続の映像で覗える(https://www.youtube.com/watch?v=GzxGnKvwIW8;https://www.youtube.com/watch?v=qKOxKAekv5Q)。長いフィルムを見ていると、行進曲や画像が編集されていることがよくわかる。ラジオの実況放送も聞くに値する(https://www.youtube.com/watch?v=DHbXuxOWOb4)。以下、陸軍観兵式画像(https://www.youtube.com/watch?v=IPQcmJL7Kto&list=RDCMUCz_pj-ly2Ponw-cxo7LvxrQ&start_radio=1&rv=iLoHouBKpRQ)。あえて言おう。この高揚感、甲子園の高校野球大会と同列である。朝ドラ「エール」の古関裕而君、君も大いに寄与していたわけだ。

 周辺の画像から、あの「陸軍分列行進曲(抜刀隊・扶桑歌)」(https://www.youtube.com/watch?v=Azh9bhQNiyk)が今日でも陸上自衛隊や警視庁の観閲式で演奏されていることを初めて知った。どうも日本ではそういう形で海軍マーチともども(密やかに連綿と?)旧体制が受け継がれているようだ。ドイツでは、法律で「ナチスを象徴する旗、記章、制服、敬礼、スローガン、その他」を国内で普及等する者は3年以下の投獄または罰金でこれを罰する、とされているのだが、この違いにはいささか驚かされ考えさせられる。

 いずれにせよ、軍事パレードは彼我においても同様に戦意高揚・国威発揚をねらったものであり、私は中共や北朝鮮での軍事パレードを連想せざるを得なかった。彼らとて空腹をかかえつつ、否かかえていたからこそ高揚を求めていたのだろう、と。

 しかし、旧軍を称揚する人たちは内務班の理不尽な暴力的リンチをどう考えているのだろうか、聞いてみたい気がする。今(2022/1/19)、映画「日本海大海戦:海ゆかば」(1983年・東映)をやっていて、垂れ流しで聞いているが、勇壮な将軍たちの戦記物というよりも貧困層の庶民水兵の目線で描いていて(よって三笠の被弾と惨劇も遠慮会釈なく描かれている:実際、右舷側に40、左に8個被弾し、113名死亡している)、そこでも制裁や男色などの日本軍の恥部も余すところなく封入されていて、その志や雄たるものあり。

【追記】「日本の古書店」に探求書の届けを登録していたら、1/27に入荷連絡があった。本体価格¥8800とのこと。風説よりはたいへん安いが・・・ やっぱり私には高すぎるので諦めることにした。

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